| うららかな昼下がり。 午前の練習が終わって食事を済ませた赤崎はふらりと散歩に出た。 地元密着型のプロサッカーチーム、ETU。 赤崎はそこのMFの選手なのだが、あまり強くないということもあり、地元でもそんなに注目されることが無い。 まあ、自分にとってはこのチームはひとつのステップくらいに思っているのでチームの人気自体はそこまで気にならないが、それでもチームが強くないとスカウトの目にも留まりにくいのはどうにかしたい。 ふと、河川敷にぼーっと座っている女の人がいた。 これだけ気候が良いとそういう人は少なくない。 だが、日向ぼっこをしているようなのどかさがない。 気になった赤崎はそちらに足を向けてみた。 彼女の斜め後ろに立って川面を眺める。 太陽の光を反射させて少し眩しい。 「何してんの?」 「わあ?!」 頓狂な声を上げて彼女は振り返った。 よくよく見ると彼女は制服らしきものを着ている。ということは、少なくとも自分よりもひとつは年下だろう。 彼女は目をぱちくりとして「あれ?」と首を傾げる。 「今日、練習じゃないんですか?」 彼女の言葉にしまった、と赤崎は思った。 サポーターか... 「ま、わたしは野球派なんですけど」と赤崎の思いを感じ取ったかのように彼女は笑う。 彼女はと名乗った。 赤崎の思ったとおりまだ高校生らしい。 「てことは、サボリかよ」 彼女の隣に腰を下ろす。 「まあ、ええ...うーん、と..そんなとこですかね」 物凄く歯切れが悪い。 「別に、サボってるの咎めるつもりはねぇけど」 赤崎の言葉に彼女は笑って「貴方だってサボってるじゃない」と言う。 「俺は休憩中」 「そうなんだ。ごめんなさい、名前を聞いても良いかしら?」 「名前?知らねぇのに練習がどうたらって言ったのかよ」 溜息混じりに赤崎が言う。少しがっかりな気持ちも込めて。 「友達がサッカー派だから。雑誌にちらっと写ってたでしょう?」 そんなこと知らない。どの雑誌だろう...おそらく試合のショットで背景の一人だったのではないだろうか。 心の中で舌打ちをして「赤崎遼。ETUのMF」と答えた。 「ETUって此処の近くなんですか?」 「すぐそこ。歩いて5分もねぇよ」 対岸を顎でしゃくる。 「ふーん、ご近所さんか」 そう言って彼女は後ろ手をついて空を見上げた。 風が吹けばヒラヒラと桜の花びらが散ってくる。 「あーあ」と彼女が呟いた。 「赤崎さんは、何でサッカー選手だったんですか?」 「あ?職業?」 「将来の夢」 「俺ほどの選手がプロにならないなんて日本の損失だって思ったから」 赤崎の言葉に彼女は思わず顔をじっと見る。 「...本気で?」 「プロをやってる奴らは少なからず傲慢だよ。でないと、戦えねぇって」 「凄いなぁー...そっか、戦ってるんだ」 彼女は赤崎の言葉をかみ締めるように「戦う」と何度か口にした。 「赤崎さん!」 突然姿勢を正して彼女が赤崎に向き直る。 「な、何だよ...」 「握手してください!!」 「は?!」 きょとんとした赤崎の前に彼女の右手が差し出された。 「あ、ああ...」と言いながら彼女の握手に応じた。 当たり前だが、彼女の手は女の子のもので、華奢で柔らかい。 ぎゅっと赤崎の手を握った彼女はあっさりとその手を離し「よっしゃ!」と立ち上がった。 目を丸くして自分を見上げる赤崎に彼女は笑う。 「ありがとうございました!」 「またサボってるのかよ、」 見下ろすと彼女は笑って「赤崎さんだって、期待してるくせに」と言う。 赤崎は彼女の隣に座った。 あれから3回目の春。 そういえば、毎年この時期に彼女はここでボーっとしている。 「今度はどうしたんだよ」 「別にー」 そう言って彼女は後ろ手を着いて空を見上げる。 「ったく...」と言って赤崎も空を見上げた。 世間話をして、赤崎の休憩時間が終わる頃に「では」と彼女は先にいなくなる。 これまで繰り返してきたことだった。 今日も世間話。 友人の話から政治経済の話まで。 本当に何でもつれづれに話をする。 「さて、と」と彼女が呟いた。 赤崎が時計を見ると確かに時間だ。 どこで時間を見てるんだろう、と不思議に思う。 「ああ」と赤崎が応じた。 「ね、赤崎さん」 今日は「では」とはまだ言わない。 「今更のこと、言っても良いですか?」 「あ?ああ、別に良いけど」 彼女は深呼吸を1回した後ニコリと微笑んだ。 「好きです!では!!」 そう言ってダッシュした。 赤崎は自分が言われたことが何かということがイマイチ処理でず呆然とした。 気付いたときには彼女は豆粒サイズ。 しかし、 「プロサッカー選手、舐めんな!」 赤崎はそう呟いて彼女を追いかける。 あっという間に追いついて「ちょっと待てって」と彼女の腕を掴む。 さすがにあの距離をつめるのはちょっときつかったな、と思いつつ息を整える。 「なあ、。これからは何て呼んで欲しい?」 「へ?」 「っつうか、人が二の足を踏んでるってのに簡単に言って、しかも逃げんな...」 溜息交じりの赤崎の抗議に彼女は目を丸くした。 「あ、あの...」 「で?何で呼んでほしい?で良いか?」 「...ぜひ!」 彼女は前のめりにそう言い、その反応を見た赤崎は苦笑した。 「了解、」 |
桜風
11.4.1