34. サラリと言わないで欲しい





突然の雨に降られ、2人は走った。

近くだから、と彼が言い、彼女は「あいよ!」と景気よく返事をして彼の後を走る。


「相変わらず足は速いな、

苦笑してエレベーターホールで彼が言った。

「まあねー。てか、もうちょい手加減してくれても良いんじゃないかしら?堺サン?」

息を整えながらが苦笑した。

その表情に堺も苦笑して「『サン』とかつけるな、気持ち悪い」と返す。

そんな堺の反応に満足した彼女は笑った。


「ちょっと待ってろ」と言って堺が家の中に入り、言われたとおりは待った。

「ほら」と渡されたバスタオルでずぶ濡れになった髪や体を拭く。

スカートを玄関先で絞るとポタポタと水滴が勢いよく落ちてくる。

「何、あのスコール的なあれ」

「知るかよ」との言葉に素っ気なく返した堺が「上がれよ」と声をかけた。

「おじゃましまーす」そう言って堺の生活空間に足を踏み入れたは「うわぁ」と声を上げた。

感嘆のそれではなくどう聞いても呆れ感情を含んだ声だ。

「あ?」と不機嫌に聞き返すと「綺麗に整頓されてるー。こんな広い家なのに...」と恨めしそうに彼女が返した。

「ああ、そういうことかよ」と言って堺はリビングからいなくなった。

「彼女はぁー?」と別室に行った堺に声を掛けると「いねぇ」と返事があった。

ま、そりゃそうか。

彼女がいたら自分を家に上げないだろう。何より、修羅場に巻き込まれるのはごめんだ。


堺とは高校時代の同級生だ。

更に言えば、サッカー部のエースとバスケ部のエース。

2人とも学校の中では注目される存在だった。

クラスも3年間同じだったこともあって、何となく結構話をしていたし、仲は悪くなかった。

こうして久しぶりに再会してお茶をするくらいには仲良しだ。

お茶をして、外に出て「じゃあね」とが言った途端のスコール。

一瞬、2人は真顔で目を見合わせてが声を上げて笑ったのを合図に「ウチが近いから雨宿りに来い」と堺が言ったのだ。

そして、今に至る。

まあ、近かったな...

」と声を掛けられて見上げる。

「シャワー浴びろ。風邪引くぞ」

「堺の方が先に浴びた方がよくない?」

「良いからお前が先に浴びろ。Tシャツとハーフパンツかしてやるから」

「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて」

そう言っては堺の案内するバスルームについていった。


のシャワーが終わって堺もシャワーを浴びた。

乾燥機があっての服はそこに突っ込んだ。服が乾いたころにはこの雨も止んでいるだろう。

窓の外を見ていると良い香りが部屋の中を漂う。

振り返るとキッチンに立っている堺の姿があった。見事なフライパン捌きを披露している。

「あれ?!」

「何だよ」

少し不機嫌そうに堺が睨む。

「慣れた手つきで...」

「まあな。いい加減なれるってもんだ」

そう言って火を止めて皿に盛り付けてそれを持ってくる。

「洗い物、しようか?」

「良いって。ほら、食えよ」

野菜たっぷりの焼きそばだった。

「うわ!おいしそう!!」

目を輝かせてそう言うに堺はまんざらでもない表情を浮かべる。

何口か食べたが「堺」と名前を呼んで顔を向ける。

「んだよ」

「結婚しよう」

真顔で言われて堺は思わず飲んでいた水を器官に詰まらせてむせる。

「おま...!」

一頻りむせた堺は文句を言わんばかりの勢いでに向かって声を出す。

ニコニコと笑顔で焼きそばを頬張っているを見て堺は溜息を吐いた。

何だか文句を言う気が失せた。

「ま、考えとくわ」

ポツリと呟いた堺の言葉はどうやらの耳にも届いていたらしく、彼女はどんどん顔が赤くなっていく。

そんなを見て「はっ」と笑う堺にも「へっ」と笑い返した。









桜風
10.12.1