37. 長雨に閉ざされた空間で





しとしとと降る雨には何となく優しさを感じる。

静かに、包み込むように...


「て、湿度が高いのがいただけないよね...」

は呟いて傘を1回くるりと回す。

傘に乗っていた雨粒がパタパタと飛んでいく。

「サボりかよ」

不意に声を掛けられてくるりと傘を回しながら振り返る。

「うわっ」と非難するような声を漏らした人物はご近所の宮田一郎だ。

「そっちこそ」

「俺がサボり?」と眉間に皺を寄せて聞き返された。

「練習は?」

「これからだよ」

ぶっきらぼうに返して宮田は雨に濡れながらの隣を歩く。

「入る?」

「霧雨だろう?寧ろの方こそ傘が邪魔じゃないか?」

確かに霧雨だが、長い間外にいるのだったら傘は必須だ。偶に普通に降ってくるし。

「ねえ、宮田くんは土砂降りと霧雨、どっちがすき?」

不意に聞かれて宮田は少し考えるような仕草を見せた。

「というか、何でそんなに両極端なんだよ」

そんな指摘をした後、「まあ、霧雨の方かな」と言った。

「なんで?」

「理由?あー..傘が要らない」

「夢の無い」

素気無くそういわれて「夢って何だよ」と宮田は少しムキになった。

「わたしも霧雨の方が好きだけど、ほら、幻想的じゃない。此処じゃない、どこかの世界に繋がる道が繋がるとか」

「漫画の読みすぎじゃないのか?」

冷たく言われてはまたくるりと傘を回す。

霧雨であってもやっぱり水滴はつくのだ。

「うわっ」と宮田は顔にかかった水滴を袖で拭った。

に非難するような視線を向けるが、彼女は気にしていないようだ。

「梅雨はいつ明けるんだろうねー」

そんな話を振ってくる。

「は?まあ、どうせ7月に入ってからだろう。しかも、梅雨がいつ明けたかわかんない天気になるんじゃないのか?」

「だよねー」

宮田の面倒くさそうな返答を気にするでもなく、は同意した。

「今しかないんだよねー」

そう言っては傘を斜めにして空を見上げた。

いつの間にか霧雨は小雨に変わっている。

宮田は霧雨のときから濡れていたのと傘を持っていなかったのとで既に濡れることについては諦めているようだ。

「よし!」

そう言ってが傘をぱちんと閉じた。

「おい」と宮田が声を上げる。

そろそろ本降りのようで、雨脚が速くなっている。

「せっかくじゃない!」

「何だがよ。傘差せって」

心配そうな声で言う宮田にニコリと微笑む。

それが合図だったように本降りとなった。まるでスコールだ。

「宮田くん」とが手を伸ばす。

ニコリと微笑んでいる。

宮田は溜息を吐いてその手を取る。

って、たまに意味わかんねぇ」

言われたはニコリと微笑んで「ありがとう」と返す。

「褒めてないんだけど」と言うが、宮田はが少し歩調を遅くすると、それに合わせて歩く速度を遅くする。

「何で雨に濡れたかったんだ?」

「優しさに包まれたくて...」

「痛くないか?」

「小雨止まりになると思ったの」

多少は後悔しているらしい。

クツクツと笑っていた宮田がやがて声を上げて笑い出す。

この雨のようにジワジワと来たらしい。

「なによ」

ムッとしてが言う。

「いいや。まあ、こうやって濡れながら歩くってのも中々やれるもんじゃないだろう」

「やっぱ、雨は霧雨がいいね」

むくれたままが呟く。

「だろう?」

少し得意になって宮田はそう返した。









桜風
11.6.1