38. 僕だから気付く事






先ほど言葉を交わしたの表情が頭から離れなかった。

「一樹?」

隣を歩く金久保が顔を覗きこむ。

「あ、ああ。何だ?」

「どうしたの?ぼうっとして」と聞かれて少しだけ困った。

「んー、まあ、な」と歯切れ悪く答える不知火に彼は肩を竦めた。




放課後になり、彼女の教室を訪れた。

しかし、先ほど教室を出て行ったと聞いて不知火は彼女のクラスメイトに礼を言ってその場を離れた。

さて、どうしたものか...

そして、ふと浮かぶ。

屋上庭園へと向かった。

浮かんだのは星空。屋上庭園ではないが、星を見るなら、此処が良いだろう。

屋上庭園の扉を開けてベンチを見るが、彼女の姿はなかった。

「違ったか...」

そう呟き、踵を返そうとしたがやはり此処のような気がしてもう少し探してみることにした。


「何だ、此処に居たのかよ」

不意に聞こえた声に驚いては顔を向けた。

プラネタリウムの影に座り込んで体育座りをして空を見上げていた。

不知火が何も言わずに隣に座る。

「どうしたの?」

驚いて隣に座った不知火に問うと彼は苦笑した。

「何かあったのか?」

優しい声音にうっかり泣きそうになった。

「何も、ないよ」

震える声で答えるに不知火は「そうか」と優しく相槌を打つ。

それから並んで星空を見上げていた。

特に何か話すでもなく、ただ、静かに星空に想いを馳せる。

「あのね、」と暫くしてが口を開いた。

「ん?」

空を見上げたまま不知火が言葉を促す。

「今朝、実家から電話があったの」

「ご家族に何かあったのか?」

心配そうに不知火が声を出す。が不知火を見ると彼は彼女を見ており、表情も心配そうだ。

「ご家族..うん。私にとっては家族。長い間飼ってた犬がね、寿命で」

少しだけ安心したような、それでもの心情を慮れば素直に安心できない、そんな表情を浮かべて不知火は「そうか」と返した。

そんな不知火の表情には苦笑した。

「どうした?」

「何で、私以上に神妙な顔をしてるの?」

首を傾げてが言う。

「そう言われてもなぁ...」

ガリガリと頭を掻き、そして、ポンとの頭に手を載せる。

「辛いな」と静かに零す不知火の声には俯き、微かに頷いた。

暫く不知火はの頭を撫で、彼女もまた、大人しく頭を撫でられていた。

「ありがと」というの言葉で不知火は彼女の頭を撫でるのをやめて手を下ろした。

「さて!」

そう言ってが立ち上がる。制服のスカートをポンポンとはたいて座ったままの不知火を見下ろした。

「帰ろ?」

「良いのか?」

「門限、あるしさ」

寮生活だから門限がある。それを破るわけにはいかない。

「そうか...そうだな」

そう言って不知火も立ち上がって「んー!」と伸びをした。

「ね、不知火」

「何だぁ?」と不知火が見下ろす。

「何で、屋上庭園に来たの?」

「俺の勘」

「勘..なんだ?」

「何だ、残念そうに」

からかうように不知火が言うと「別に!」とが返す。

そんな反応が可笑しくて不知火は笑い、彼女の手を取って歩き出す。

「なあ、

振り返らずに不知火が名前を呼ぶ。

「何よ」

「俺だから、だぞ?」

「何が?」

「俺だから、お前の涙に気付いたんだぞ」

振り返った不知火の表情に思わずドキリとしただったが「何の自慢よ」と返した。

「ったく、素直じゃないなー」

仕方ないな、と笑う不知火はそのまま前を向いて歩き出す。

繋いだ手を少しだけ強く握ったに不知火はまたしても苦笑して「ったく、素直じゃないなー」と先ほどと同じ言葉を繰り返した。









桜風
11.9.1


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