39. 記念日じゃなくても





待ち合わせ場所に立っていると遠くから赤い塊を持ってやってくる人がいる。

いやいや、何だ。あれ...

そう思っていると自分の待ち人だった。

え..ちょっと何で??

さーん!」

えーーー??!!

目を丸くする。

彼の実家の家業は知っている。

木村園芸。商店街の花屋さんだ。


出会ったのは、やっぱり彼の実家だ。

花束を買いに行った。

花屋さんなんて何処にでもあるだろうと思っていたのに、意外と少ないこのご時世。

入院中の友人のお見舞いに行こうと思って向かった病院の近所に『お花屋さん』と呼べるお店が無かった。

総合病院だったら院内にそういう施設もあろうが、友人が入院していた病院はそこまで大きなくなく、院内で花束を購入できなかった。

だから、来た道を戻って途中にあった商店街に入っていった。

『商店街』になら花屋さんがあってもおかしくないだろうし...

そう思ってウロウロとしていると、花屋を見つけた。

珍しく、若い男の人が店番をしている。

逆に声が掛けづらい...

「いらっしゃい」と笑顔で声を掛けられた。

何で用事があるって分かったのかな、と思っていると「こっち見てなかった?」と言われた。

確かに、チラチラと見ていた。だって、用事があるし。

「何か?」

「友達のお見舞いに、花束を持って行こうかと思って」

「なるほど」と呟いた彼は予算を聞いてささっと花束を作り始める。

その彼が作った花束は『繊細』という表現がぴったりのそれで、どう考えても予算内に納まっていない。

「あ..あの...」

「ほら、出来た」と言って見せてくれたそれは手に取りにくい。

「あー、ちゃんと予算内だから」

の考えを察したらしい彼は苦笑してそう返す。

しかし、何と言うか...

大学生くらいに見える彼に宥められてしまった。確かに、年よりも若く見られることが多い自分だ。

年下に見られているんだろうなぁ...

ま、いっか。

そう思ってお代を払ってそのときはそのお店を後にした。

『木村園芸店』という店名だけは頭に入れて。


それから数ヵ月後。

その友人が退院し、その快気祝いの席に何故か彼が現れた。

向こうも驚き、そして、が木村より年上だと知って彼は慌てた。

その慌てように、は思わず噴出してそのまま大爆笑してしまい、今思えばこの関係はそれがきっかけだったような気もすると時々思い出す。



「どうぞ」と花束を差し出された。

「え..と」

今日は何かあったっけ...?

只管考える。

誕生日..じゃない。何か記念日?

一生懸命自分の頭の中のカレンダーを捲る。

しかし、本日はまったくそんな記念日とかではない。

特に花束をもらう理由が無い。

「あのー...木村くん?」

「はい?」

ニコニコと返事をした木村にその意図を聞いても良いかどうか悩む。

「今日、何かあったっけ?」

躊躇いがちにその花束を受け取りながらが問う。

「特に何も。けど、記念日じゃなくても花束を贈っても良いじゃないかなって思って」

ニコリと微笑む木村には溜息をついて、「意外とキザッたらしいこと好きよね、木村くん」と零す。

「ま。たまに、だから良いんじゃないですか?」

顔を覗きこむようにして言う木村に「はいはい」と適当に返しては花束を抱えなおす。

「さて、何処に行こうか」

「ドライブなんてどうですか?」

「それがいいわ」

この大きな花束を持って歩くのはちょっと辛い。

の返事に、「じゃ、きまり」と木村が言って彼女の手を取る。

「毎日が記念日です」とか言われるよかマシだな...

そんなことを思いながら木村に手を引かれるままは彼の後を大人しく歩いた。









桜風
11.1.1