40. 何度目かの春





ああ、こんな季節だったな。

そう、こうしてシーズンが始まっていく。

まだ冷たい風が吹き、花の蕾もまだ固い。春、と呼ぶには少し早いこの時期に、オレ達は出会った。



まだ新米もいいところのオレは、初めてのシーズンを迎えるに当たって凄く緊張してて。

けど、せっかくプロになったんだからやってやると言う気持ちは大きかった。

同期といえば、勿論仲間でライバルで。

他の、『社会人』って呼ばれる奴らもそうなのかなと自分の知らない世界にちょとだけ思いを馳せてみたりもした。

もちろん、同期のあいつらは凄くいいやつ達ばっかりだったし、先輩達も、そうだな...色々か。

やっぱり、どこの世界にだって自分に合う人合わない人はいる。


初めてのシーズンでスタメンってのは随分と遠かった。

下手なつもりは無い。

そりゃそうだ。プロだもん。プロのチームに声をかけてもらったんだ。

だから、下手なはずは無い。

けど、やっぱりプロとアマの違いは歴然としていた。

少し、そんな現実に心が折れそうになったとき、オレは彼女と出会った。

』と書いてある名刺を彼女はくれた。彼女はフリーのライターだった。

こんな、二部のチームにフリーで取材ってどんな了見だ、と思った。金持ちの道楽か何かなのかな、とも。

しかし、彼女の取材は道楽でも何でもなかった。

彼女の熱心さは凄く伝わってきたし、その熱心さにオレも触発された。

そして、オレはいつしか彼女と親しくなり、取材対象とライターの境界線を越えた。

最初は本当に楽しかった。楽しくて、彼女が世間に認められるすげー記事を書いたとき、その内容がオレだったら、ってそれこそ今のオレからは考えられないくらい勤勉に練習した。

けど、それはそんなに長く続かなかった。

彼女がスタジアムでオレに声をかけてくることが無くなった。本当にそれは突然で...

オレはそんな残酷な現実が中々受け入れることが出来なかった。



「あたしが死んだみたいにモノローグ入れるのやめてくれる?」

背後から声がして丹波は肩を竦めてくるりと振り返る。

「あれ?エスパー?」

「声に出してたでしょ」

呆れたようにが言う。

「で?何度目だっけ?」

「自分がその世界に入って何年目か、くらい覚えてないの?」

彼女に言われて丹波は指を折り始める。

「てか、ホントに急だったもんなー...フリーから就職ってどういうこと?!ウチの番記者ならまだしも、ビクトリーって!!」

丹波の今更の文句には「あたしの責任じゃない。デスクに言って」と返す。

「ま、でもさ」

そう言って丹波は彼女の手を取った。

「お陰で、こうしてオフのときに仕事の話をしなくて済むってもんだよな?」

さすがに仕事の話を始めたらが会話に困りそうだし、彼女が別チームの取材をするときに丹波から聞いた情報が邪魔になるかもしれない。

そんな配慮から仕事の話はしない。

ただし、代表の試合についてはお互い熱く語る。

これは、結局サッカー馬鹿な2人にサッカーの話題を完全シャットアウトなんてムリだとお互いが分かっていたので解禁にした唯一のサッカーの話題だ。

これならどのチームとか関係なく、同じチームについて語れるってもんだ。

「あ、でも。今度同行することになったんだ」

「代表?!」

「うん、五輪代表だけど取材でね」

「くっそー!オレも代表になりたい!!」

「...だから五輪代表だって。年齢制限あるでしょ?」

冷ややかな視線を送るだが、そんなことは全く気にならないのか丹波はまだ「オレだって若いんだ!」とわめいている。

「全く...聡、あんたいくつよ」

「男はこれから!31です」

ニカッと笑って丹波が言う。

「あー、バカだ」

溜息混じりに彼女が言う。

「けど、はそこが好きなんだろ?」

軽い口調で言う丹波に「ぬけぬけと」と言いつつの表情は柔らかい。

「んじゃ、今日はいつにもましてラブラブだ」

「はいはい。そうですねー」

ゆっくり出来るわずかな時間を2人で過ごす贅沢の始まりである。









桜風
11.3.1