42. 永久保存メール





パソコンを立ち上げてメールをチェックする。

仕事関係のメールの中に、1通プライベートメール。

プライベートでこのアドレスを知っている人は一人しか居なくて、仕事を済ませて開封する。

殆どしゃべらないから連絡は決まってメール。

電話が掛かってきたらそれこそ奇跡だと思っている。

まあ、時差もあるしね。


メールも基本的に近況報告だけ。

昔は手紙だったけど、筆不精だったからメールを勧めてみたら、こっちはそれなりに頻度は上がった。

と、言っても半年に一度連絡があればめっけもん。

口数が少ないくせに、メールになると、意外と饒舌でそのギャップが可笑しい。

最近は、なぜか英語で送られてくる。

あたしへの挑戦かもしれないけど、叩きつける挑戦状が間違っていることに本人が気付いていないから、当分放置して、いつか得意げに言ってきたら指摘してみようと思っている。

「あたしの職業、知ってるんでしょ?」って。

メールの最初と最後は毎回同じ。

季節の挨拶とか頑張ってみようとかまったく思っていないみたいで、それが『らしさ』だと思う。

返信ボタンを押したところで玄関先で音がした。

何だろう...

こういうとき、一人暮らしはちょと困る。

途端に心細くなってしまうのだ。

鍵...

ガチャガチャと音がしている。

チェーン掛けてない。

慌てて玄関に向かうと、目の前に聳え立つ人物。

「はあ?!」

「疲れた...」

あたしの驚きはサクッと無視して部屋の中にどかどかと入ってくる。

「ちょ、どうしたの?明日帰ってくるってメールでは...って、何でメールが届いたのとあんま時間が変わらずに帰ってくるの?!」

「空港で送った。成田」

「だったら、メールじゃなくて電話にしなさいよ!」

「面倒だった」

そう言ってソファにゴロリと寝転ぶ。ソファに対して体が大きいからかなりはみ出していて体が悪くなりそう。

時差を気にしなくていいなら電話のほうがよっぽど楽に決まってる。

ぷりぷり怒っていると「なあ、」と声を掛けられる。

「なに?」

「俺、帰ってきた」

何が言いたいかピンと来た。ピンと来たが...

「まずは、楓からじゃないの?」

そう、家に帰ってきたらまず...

「ただいま」

「おかえり」

「腹減った...」

「あたしもこれから。何が食べたい?」

あたしの問いに少し悩んだ楓は「米と味噌と梅干」と純和食との返事がある。

「オッケ、全部ある」

「なら、少し寝る」

「起こしたらちゃんと起きてよ」

あたしの声には寝息が返ってきた。

全く...


パソコンのメールはメールボックスに保存。

随分と溜まったな、とメールボックス内に表示してあるメールを見る。手紙もだけど、メールも中々削除できない。いつまで保存してるんだろうな、これ。

パソコンの電源を落としてキッチンに向かう。

まあ、でも。この先も消すことないような気がする。

それなりに、あたしにとって大切なものだから。









桜風
11.10.1


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