[04] もたれかかる




 とん、とふいに掛かった重力には顔をあげた。

「月曜締め切りのレポートがあるから今はダメ」と言ったにも拘わらず先ほど部屋にやってきた男の体重だと気づく。

「なに?」

軽く振り返りながら問うと「……別に」と返事がある。

「失礼な言葉よ、それ」

「特に意味はないけど」

律儀に言い直す男に小さく笑って「そう」と返したは再び目の前のパソコンのディスプレイに視線を戻す。

「それ、いつまで?」

「締切月曜まで。そうね、24時間切っちゃった」

「なんで前もってやっておかないんだよ」

拗ねたようにいう男の言葉は至極まっとうなもので。

は言葉につまり「面目ない」と上っ面だけの反省を見せる。



暫く作業を続けていたが、男はから離れようとしない。

「一郎くん、重いです」

「まあ、ね」

「『まあ、ね』じゃなくてね。ちょっと離れて」

「嫌だ」

「私、レポートあるから今はダメって言ったでしょ?」

「言ったけど、来るなって言わなかった」

(「今はダメ」って言ったじゃん。ちゃんと断ったじゃん)

心の中で盛大な反論を叫び、ため息をついてキーボードに載せる手を下ろした。

時間を確認する。

(1時間、なら……)

「1時間だけ」

呟いた途端ふっと背中が軽くなる。

「こなき爺ですか」

「なにそれ」

「うわ、なに。知らないの?ジェネレーションギャップって言うほど離れてはないはず……」

少しショックを受けながら立ち上がるに続いて男も立ち上がる。

「何を飲みますか?」

さんは?」

「ココア」

「じゃあ、俺も」

「ホイップクリームを添えて」

「それは要らない。というか、また太ったって嘆くの自分だぜ?」

男の言葉には足を止めて回れ右をし「余計なお世話だ」と彼の額を小突いた。

「痛い」

「嘘おっしゃい」

返した彼女は冷蔵庫から牛乳を取り出して鍋に入れる。

「1時間、何しようか」

「1時間?」

「さっき言ったでしょ。『1時間だけ』って」

の言葉に男は俯く。彼女が時間をはっきり区切ったらそれはもう融通の利く数字にはならない。

「特には」

「じゃあ、家事していい?」

「……」

「はいはい、おしゃべりしましょうねー」

コクリと頷く男には苦笑を漏らして、火にかけている牛乳に視線を落とした。

(プラス30分延長かな?)

普段は、忙しいと断ったら大人しく引き下がる男が態々忙しいと言っている中に押しかけてきたのだ。たまには、甘やかすのも悪くない。

仕方ないと諦めながらの口の端は緩んでいた。









桜風
16.1.31


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