[06] 頬に触れる




 「あなた、きれいね」

そう言いながら頬に触れた手は小さかった。


宝を求めてその村を壊滅させたはずがひとり生き残っていた。

このまま見逃しても生きていく術を持たない弱いものだ。ならば、ここで命を奪う方が優しさだろうと、普段見せない仏心を出した蔵馬に少女は言ったのだった。

小さく幼い娘に触れられるなど想像していなかった蔵馬は、命を奪うタイミングを失い、何となくこの娘をアジトに連れ帰ってしまった。

側近にはは非難され、呆れられもしたが、ひとまず、ここに置いておく事になった。

とはいえ、役に立たない者を置いておくほど組織はお人よしではない。

この盗賊団に身を置いている以上、盗賊としてやっていけなくては居場所はない。

周囲の者たちが物珍しそうに、暇つぶしに、と盗賊としての技術や知識を教えていくうちに、“使える”程度にはなった。

仕掛けのある遺跡群にはまだ連れていけないが、ただ盗むだけの、集落の襲撃にはくわえられる程度には成長したのだ。

案外物覚えがいいと高く評価をする者がいるが、一方でそれを面白くないと思う者も当然にいた。

「どうするんだ?」

側近に問われた蔵馬は目を眇めた。

「だから、の事だ」

彼女には本来名があったが、この盗賊団に入るときに捨てさせ、代わりに蔵馬が名づけた。彼女はその名を喜んだ。

どうして、こうも警戒心のない弱小の者がここまで生き延びられたのだろうかと考え、だから隠れ里だったのかと思い直す。

がどうしたのか?」

「反感を買ってるぞ」

「それで消えるならそれまでだろう」

冷たくいう蔵馬に側近は肩を竦めた。どうせなんだかんだ言いながら気に掛ける癖に、という言外の指摘が見られる。

それに気づいてはいるが気づかないふりをして蔵馬は次の計画を立てていた。



次の標的はの住んでいた集落の近くだった。

あの周辺は隠れ里が多くある。互いの集落は不干渉であるが、地形的に隠れやすく、結果多くの隠れ里ができてしまったようだ。

しかも、隠れ里はたいてい何かしらの秘宝を守っている。

道案内にを連れていくことにした。

集落同士が不干渉であっても地形は大体把握していると言っていたのだ。

崖を飛び越えていく途中に「きゃっ」と短い悲鳴が耳に届いた。

振り返るとの姿がなかった。

蔵馬は一度足を止めた。だが、戻ることはせず秘宝が奉られているという神殿へと急いだ。

そして、二度とと会うことはなかった。



――なぜ思い出したのだろう。

はるか昔の出来事を回想している蔵馬は敵に囲まれていた。仲間とは分断され、今は独り。

敵の数が多く、控えめに言ってもピンチというやつだ。

そんな中で思い出に浸るとは、自分のことながら中々余裕があると感心してしまう。

敵が一斉に襲い掛かってきた。

鞭を手に構えた蔵馬の前にさっと影が躍り出る。鎌でひと薙ぎ。

蔵馬に襲い掛かってきていた敵が崩れ落ちて行った。

踊るように敵を屠っていくそれは女の姿をしていた。女がちらと振り返る。

目が合った。

どこかで会ったような既視感があり、蔵馬はただ女の背を眺めていた。

敵を一通り排除した女は戦闘態勢を解き、そしてくるりと蔵馬に向き直る。

「罠に気づかなかったの、蔵馬」

問われて蔵馬は警戒を見せる。

「有名人よ。というか、本当にわからない?」

肩を竦めて女は蔵馬にゆっくりと近づいていく。

ついには蔵馬の目の前に立ち「に覚えは?」と問うた。

「昔拾ったことがある」

「どこかで落ちて行ったことは?」

「あったな」

「拾いに行こうとは?」

「思わなかった」

「そう」

「復讐に来たのか?」

蔵馬の問いに女は目を眇めて肩を竦める。

「くだらない。魔界のルールをそのに教え込んだのでは?」

「では、なぜここにいる?」

目の前の女は間違いなくだった。

「そうねぇ。たまたま近くを通りかかったら昔お世話になった同業者がピンチだし。まあ、恩を返すくらいしてもいいかなって思う程度には世話になったから来たのよ」

「……同業者?」

「ええ、盗賊稼業で生活してるわ」

「独りで?」

「いいえ。仲間はいるけど、そちらほど大所帯でもないの。今回狙った獲物が、あの妖狐蔵馬と同じだって知ってみんな怖気づいてしまったわ」

「そうか……」

どこか安堵しているようなそんな自分の呟きに困惑していると女が手を伸ばしてくる。

不思議とよけようとは思わなかった。

「隙だらけよ」

言って彼女は蔵馬の頬に触れ、先程敵の攻撃が擦って滲んだ血を拭って目を細めた。









桜風
16.2.13


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