| 就職して、頑張って貯蓄して初めての海外旅行は、昔馴染みのいる英国にした。 観光案内をしろというと、「面倒くさい」とか「いやだ」とか言いながらも結局ホテルまで迎えに来てくれた。 どこもかしこも初めてだからどこに行っても楽しいだろうと思い、観光コースを任せると彼の住んでいる街を案内された。 石畳の路地を目的もなく歩き、地元のベーカリーで達海お勧めのパンを購入して公園に向かう。 怪我をして少し休んでいると耳にしていたが、本人の口からきいた話をは理解できなかった。頭が理解を拒否した。 「ねぇ、今のほんと?」 「ウソ」 ホッと息を吐くと 「じゃないよ」 と要らない言葉が続いた。 「本当なの?」 再度確認すると彼はしかと頷く。 「こんなことでウソ吐いたって仕方ないじゃん」 「さっき吐いたじゃん」 の指摘に達海はため息を吐いて見せて、 「が早とちりしただけじゃん」 などといけしゃあしゃあと言い放った。 確かにそのとおりではあるが、希望をちらつかされれば、それに食い付いてしまうのは仕方ないだろう。 「サッカー、やめるの?」 喉がひどく乾く。 掠れた声で訊ねれば、達海は肩を竦めてみせた。 「オレ、フットボールが好きだし」 簡単には離れられないのだろう。 達海は隣に座る古くからの友人に視線を向けた。彼女の瞳は涙が今にも零れそうで。 「泣くなよ」 「泣いてないもん、まだ」 確かに、と達海は苦笑してコートの袖で決壊秒読みの彼女の目元を拭う。 「痛い」 「顔に何付けてんの?服が汚れたんだけど」 「ひどい」 「が?」 「達海に決まってるでしょ」 「なんで?」 「なんでも!」 「……少しさ、考えるよ」 「……うん」 暫く2人の間に沈黙が降りる。空が茜色に染まり始め、公園にいる人たちも少しずつ減ってきた。 「ホテル送るよ、不細工ちゃん」 「ちょっと黙ろうか?」 達海は立ちあがり、目元を赤くして言うに手を差し出す。 「ほら」 「うん」 達海に手を引かれながら、歩き出す。 夕暮れの知らない街を昔のように。 |
桜風
16.2.7
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