| 「付き合って」 そういわれた私の口から出た言葉は 「いいけど...」 ウチの学校には県内では結構有名らしいバスケ部員が居る。 そんな彼に何の気なしに「付き合って」と告白まがいなことをされて私も何の気なしにOKした。 彼の人気は噂でかねがね聞いている。 だから、私は頷いた。俗に言う“ステータスシンボル”ってのに憧れて。 人気のある彼氏を持てば羨望の眼差しを受けると思った。 実際、羨望の眼差しを受けると共にと僻みにも似た噂が立った。 けど、私は全くそんなことは気にならない。 だって、別に彼のことが好きじゃないから。サイテーなことに、いよいよ自分の身が危なくなったら別れればいい。そう思っていたのだ。 「ね、さん。今日の試合、どうだった?」 「ん?凄かったんじゃない?」 一応“付き合っている”というならば、それなりに”彼女”らしい事は少しくらいならしておいた方が良いだろうと、見事に打算的な考えで彼の試合の応援に行く事数回。 いつからか、分からないけど。 さっきの試合を見ていて、そんな打算はそろそろ消えてしまいそうだと気付いた。 それに気付いた私は凄く焦っている。 「...どうしたの、さん?」 ひょい、と彼は腰を屈めて私の顔を覗きこんでくる。 「何でもない!」 「そう?」と言いながら肩を竦めた彼は、私の頭上高くから「お腹空いたねー」となんとも平和そのものな言葉を口にしている。 ああ、どうしたらいいのだろう? 正直、恋とか愛とかそういうの分からない。というか、分かりたくない。 自分で言うのもなんだけど、私は恋愛に臆病で。それは数年前の失恋のお陰。 私の隣にいる仙道くんは私が好きになる要素が無いから付き合えていた。 そう。好きになる要素など無かったはずだ。 結構軽い性格だし、時間は守らない。約束もすっぽり何処かへ飛んでいくことが少なくない。 友達、という名前の女の子は山ほど居るし、そのクセ男の子とも仲が良い。 本は読まない、テレビは見ない。 はっきり言って共通の話題なんてものも少なくて、学校の先生の話以外盛り上がれる話題がないと来た。 それなのに、何故。 私は隣を歩く仙道くんの声に、雰囲気に緊張しているのだろう。 面倒くさくなったら簡単に別れられる存在だと思っていた。何の未練も無く、お互いさっぱりと。 この込み上げてくるものは何だろう? わからないまま、その状態で居ると目が熱くなる。 「え、ちょ!どうしたの、さん!!」 隣では驚くくらい慌てる仙道くん。 「なん、でも...」 「や。もう『何でもない』は効かないから。なに、どうかした?お腹が痛いの?」 何ゆえ、此処で“お腹が痛い”が出てくるのだろう? 泣いている私はどこか冷静で、でも、行き場のないこの感情はどうしたらいいのか分からず、仕方が無いからそのまま涙を流し続けた。 困り果てた様子の仙道くんは私の手を引いて公園へと向かう。 ベンチに私を座らせて一度その場を離れて冷たいジュースを買ってきてくれた。 「どうしたの?」 折角涙は止まってくれたのに、さっきよりもずっと優しい声にまた泣きそうになる。 「ごめんなさい」 私の口から出た言葉は謝罪の一言。 「え、えーと。オレ、何も怒ってないよ?」 未だに困惑している仙道くんは首を傾げながらそう言う。 だから、私はあのときから今までどんな事を考えていたのか話をした。 仙道くんは怒るでもなく、悲しそうにするでもなく。呆れるでもなく、ただ、真剣に相槌を打つ。 全部話し終わって仙道くんを見上げると「うーん」と腕組みをして空を見上げる。 空は徐々に紫色に変わり始めていた。 「あぁ、もう可愛いなぁ」 仙道くんが呟く。 「へ?」 予想していた言葉と随分違ったため、変な声が漏れる。怒られるかと思ったのに... 「だって、そうでしょう?さんは泣いちゃうほどオレの事好きなんでしょ?」 本人の口から聞くと異常に恥ずかしい。 「や、それ以前の私が問題で...」 「いやいや。問題は“今”でしょ。今は、さん、オレの事好きなんでしょう?それでいいじゃない。でも、最初を間違えたって言うなら」 仙道くんは一度言葉を区切り、私のに向き直って真剣な眼差しを向けてきた。 「オレと付き合って、さん」 思わず息を飲む。 私は何でこの言葉に何の気なく返事が出来たのだろう? 「いいけど」 震える声で精一杯強がった。 仙道くんは満面の笑みで 「さんには敵わないな」 と言う。 「それはこっちのセリフだよ」 仙道くんに聞こえないような小さな声で私は返した。 けど、多分仙道くんの耳にこの言葉は届いていると思う。それなのに、聞こえないフリをしてくれているのだ。 けど、それでいい。 だって、私は彼に敵わないって知っているのだから。 |
桜風
08.5.1
08.6.1(再掲)
ブラウザバックでお戻りください