| 休憩時間、やたらと目が合うことに気がついた。 元々わたしが彼を見つめているのだからそういう機会が増えてもおかしくないのだろうけど。 それでも、こういう言い方したら怪しい人みたいで不本意だけど。 わたしは彼を盗み見ているつもりなのだ。 彼は少々ムカつく事に何でも出来る。 クラスのお兄さん的な存在であるにも拘らず、それを億劫と思っていないようで。 しかも、軽々と雑務をこなしている。 クラスではそんな人だけど、放課後の体育館では頼れるキャプテンで更には神奈川でも有名なスター選手だそうだ。 その割には時々ビックリするくらいの天然っぷりを発揮する。 とても不思議な存在だったりする。 「じゃあ、今日の日直はあとで研究室に来いよー」 朝のホームルームが終わるときに担任がそう言った。 んー? 黒板を見て「あ、」と声が漏れる。 本日の日直のところには『』と『牧』。 タイムリーというか... 実は避けたい事だったりもするんだけどな。 「」 そんなことを思っていると頭上から声が降ってきて見上げると、今確認した日直の相棒、牧くんが立っていた。 「ああ、うん。行こうか」 椅子を引いて立ち上がる。 立ち上がっても彼がとっても高い事には変わりなくて、どうやったらこんなに成長するのだろう?と思ってしまう。 「何だ?」 「え?」 「あ、いや。今何か言いたそうな顔をしてたような気がしたから」 牧くんに言われて驚いた。 わたしって結構顔に出るんだ... 気をつけなくては。 「何でもない。何なんだろうね、先生の用事って」 「碌なものではないだろうな」 小さく笑いながら牧くんがそう言う。 その表情が大人っぽいと思った。 「そういえば」と言って牧くんが言葉を区切る。 「ん?」 「最近良く目が合うな」 そう言われてドキッとした。目が合う寸前で逸らしているつもりだというのに、わたしはどうやら未練がましく彼と目を合わせているらしい。 しかし、 「そう?気のせいじゃない?」 とぼけてみると彼は「そうか?」と言ってこの話題は終わりになった。 「はい?!」 「ま、ヨロシクな!!」 担任の用事は放課後残って資料を作成してくれというものだった。今度、教育委員会で研究会があってその発表に使うとか使わないとか。 日直関係ないじゃん!! わたしが呆然としていると、 「俺も手伝うから」 と牧くんが言う。 「いいよ。部活、忙しいんでしょ?幸い、というか災いと言うべきか。とにかく、わたしは帰宅部だから。なんとかなるっしょ」 そう言って見上げると牧くんは「でも、」と何か言おうとしたけど、それで話はお終いとばかりにわたしは牧くんを置いて教室へと戻っていった。 放課後、一人寂しく大量のプリントと格闘しているとカタリ、と教室のドア付近で音がする。 振り返るとそこには肩にタオルを掛けた牧くんが立っていた。 「牧くん!?」 「どうだ?」 そう言いながら教室の中へと入ってきた。 「いや、ホント。遠慮ってことを小学校に戻って習ってこいと言いたいくらいですよ」 牧くんも目の前のプリントの山を見て溜息を吐いた。 「手伝おう」 そう言って彼がプリントに手を伸ばす。 「いいよ!練習の途中でしょ?」 「しかしなぁ...」 そう言って牧くんはじっとわたしを見た。 その視線に居心地の悪さを感じて思わず背中を向ける。 「そういえば、。話が変わって悪いんだが」 突然の話題転換にわたしは思わず振り返って「何?」と返事をした。 「やっぱり、最近良く目が合うと思うんだ」 何、まだそんなことを考えてたの!? 「思うに、は俺に何か伝えたい事があるんじゃないか?」 いやいやいやいや。有るけど、無いよ!! 俯いて「ないよ?」と呟いた。 「本当か?」 「ホントです」 暫くの間、教室に沈黙が降りる。 「もういいから、牧くんは部活に戻りなよ」と言おうと俯いたまま口を開けると、わたしが言う前に 「ウソツキ、俺の目を見て言え」 そういわれた。 自信満々のその声。 それでいて柔らかくて、心地良い。 ゆっくり顔を上げると牧くんは苦笑いを浮かべていた。 「が言わないなら、俺が言おうか?」 そんなことを言うから目をぱちくりとすると 「俺も、を見てたんだよ。だから、目が合っていたんだ。さて、その先を聞きたいか?」 イタズラっぽく笑って牧くんが言う。 素直に頷くべきか... 悩んでいたら、 「じゃあ、練習に戻るから。終わってもう一度来る事にするな?」 そう言って牧くんが教室の出口に向かう。 「あ、あの!」 思わず声を掛けて引き止めると振り返った牧くんは 「好きだよ」 そうさらりと言って照れくさそうに笑う。 「じゃあ、また後でな」 そう言った牧くんを呆然と見送ったわたしはその後暫く頭を抱えながら教室の中でくるくる回っていた。 牧くんってあんなキャラだったんだ...!! |
桜風
08.4.1
08.5.1(再掲)
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