8.「これだから、お子様は」





イザークには3歳年上の従姉が居た。

彼女の名前は、

決して親戚づきあいが盛んというわけではないジュール家だが、はエザリアのお気に入りのために結構ジュール家に遊びに来ていた。

イザークの好きな日本で言うところの『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という優雅さと凛とした聡明さを兼ね備えた存在が、だ。


しかし、イザークはしばしば思う。『3歳』というのは意外と近いようで遠い...

彼はいつも必死に彼女の後を追いかけていた。それなのに、イザークの必死さに比べて楽そうに軽やかに歩み、そして、イザークを近づけさせない。



ある日、イザークが自室から出て階下に向かうと聞きなれた声が耳に届く。

!?」

そこには家の者と話をしているの姿があった。

「ああ、イザーク」

振り返って微笑む

何だ?今日来ると言っていたか??

そんなことがぐるぐる回るが、対するはいつもどおりだ。

「叔母様に会いに来たんだけど...」

「ああ、さっき評議会の非常招集が掛かったからな」

「みたいね」

家の者から聞いたのだろう。は苦笑いを浮かべて頷いた。


折角来たのだから、少しエザリアを待つというに付き合ってテラスで紅茶を飲む。

「何でまた、今日は?」

「うん..特に理由はないの。このコロニーに来る機会があったから。だから、叔母様とは約束をしていたわけではないのよ」
やはり困ったように笑う。

「そうか」とイザークは気にしないフリをしてそのままカップに口を付けた。

しかし、態々非常召集を掛けるくらいの問題が生じたということは、逆を言えばそんな簡単な問題ではないということだ。

実際、は2時間近くジュール家に滞在したが、エザリアが帰宅する気配が一向に無い。

イザークはその間、自慢の庭園を一緒に散歩したり、またお茶をしたりとイザーク的には中々良い時間が過ごせたが、結局は帰ることにした。

「泊まっていけば良いだろう?知らない仲でもないんだし」

イザークが勧めてみるが、

「明日、学会があるの。このコロニーからは時間までに会場へはいけないわ」

も残念そうに首を振る。

「じゃあ、送ろう」

そう言ってイザークは一旦部屋に戻りエレカのキーを取ってきた。

車の中で話をしているとあっという間にステーションへと到着した。

「じゃあね、イザーク。ありがとう」

「ああ、気をつけて帰れよ」

あっさりと去っていくにそれ以上何も言えずにイザークは溜息を吐いた。


ステーションへと向かう途中、何だか話を盛り上げる事ができなかった。

の前ではどうしても上手く行かない。

「これだから、お子様は」

ハンドルに腕を乗せ、それに顎を置いて自嘲気味に呟いた。

「案外そうでもないよ」

不意に窓の外から聞こえた声にイザークは驚いて顔を上げる。

そこにはさっきステーションに入ったはずのが顔を覗かせていた。

!?」

「ごめん、忘れ物。シートにキー落ちてない?」

何でもないことのようにはそう言う。

「え!?あ、ああ...これか?」

慌てて助手席を探すとが言ったとおり鍵が落ちていた。

「良かった、シャトルに乗る前に気付いて。野宿するところだったわ」

笑いながらは受け取り、

「じゃ、イザーク。また...」

気のせいか少しだけ名残惜しそうに笑う

「今度、会いに行っても良いか?」

咄嗟に出た言葉でイザークが聞くと

「歓迎しますわ」

と満面の笑みでが応える。


イザークは驚いて眉を上げ、すぐに微笑む。

「じゃあ、連絡する」

「待ってるわ」

は軽く手を挙げて応え、今度こそステーションの人ごみの中に姿を消した。








桜風
08.5.1


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