9.「たのむから、そんな顔するな。我慢も限界なんだよ」





部員数が3桁に上る翔陽高校バスケ部。

そこで毎日せっせと体育館の中を走り回る女子が居た。

所謂マネージャーというやつだ。

最初、マネージャー希望です、と顧問に言うとすぐにキャプテンが呼び出され、何故か

「思いなおすのなら、今のうちだぞ」

と言われた。

あれだけの部員が居るのだからマネージャーが入れば諸手を挙げて受け入れるだろうと思っていたはちょっと驚いたが

「思いなおす必要はありません」

と返して逆に藤真を驚かせた。


実際、体育館で部員たちを目の前にすると圧倒されたが、それでも後悔はしていない。

今のところは。

毎日休むことなく部活に出て夜遅くに帰るに意外にも先輩たちがとても優しかった。

同級生とはそんなに話さないが、先輩たちは何かと気を遣ってか天然かは分からないが声を掛けてくれる。

それがとても心強いというか心地よいとか思っていた。

中でも、一番の気遣い人間は副キャプテンの花形だった。キャプテンで監督の藤真をたすけ、部を纏めてさらにマネージャーに気を遣う。

どれだけの完璧人間だろうか、と思うこともあるけど、時々抜けていることもあるがそこも好感が持てる理由のひとつだろうと思う。



ある日の練習中、花形が怪我をした。

そのときはちょうど席を外しており、休憩時間に入る少し前に戻ってきたら花形が居ない。トイレかな、とも思ったがそれでも休憩時間が終わりに近づいているというのに戻ってこない。

不思議に思って近く居た部員に聞いてみると、怪我をして保健室に向かったとの話を聞いた。

は思わず保健室に向かって足を向けたが、体育館を出た渡り廊下で大きな壁にぶつかって思わず尻餅をつく。

こんなところに壁はなかったはずなのに、と思って見上げると大きな壁こと花形が立っていた。

「大丈夫ですか!?」

「それ、俺のセリフだと思うけど?」

花形は笑いながら手を差し伸べた。

恥ずかしいと思いながらもその手をとって立ち上がる。

「あの、怪我をしたって聞いたんです」

がいうと

「ああ、そんな大げさなことじゃないよ。ただ、大会が近いからな。救急箱で済ませようと思ったんだけど、周りがうるさいから仕方なく保健室に行っただけだから。心配することないさ」

そうは言っても、やはり大事な試合を控えている花形が怪我をしたと聞けばだって心配はする。何より、彼は3年で。最後の大会だ。

心配は要らないと言ったにも拘らず未だに心配そうに見上げるに花形は苦笑する。

「たのむから、そんな顔するな。我慢も限界なんだよ」

花形がそう言ってすっと頬を撫でて掠めるようにキスをした。

何をされたかイマイチ把握できなかったはきょとんとしたまま花形を見上げていた。

が、やがて見る見るうちにその顔が真っ赤に染まり、俯いてしまった。


「どの口があんな事を言ってるんだ?」

何とか2人の会話が聞き取れる距離に居た藤真が鼻を鳴らしながら呟く。

少し、面白くない。

「いやぁ、さすが花形先生だ。実はウチで一番のタラシはあいつだよな」

ニヤニヤと笑いながら高野が言う。

「お前ら...あの声、聞き取れたのか?」

呆れたように永野が言うと

「お前ら、聞こえないの!?」

と藤真と高野が言う。

「関心の高さの違いだろうな」

呟く長谷川は深く溜息を吐いた。

とりあえず、この2人はこの先も花形の邪魔をするんだろう。

頑張れ...

手助け等する気が全くないので、今のうちに心の中で花形にエールを送っておくことにした。


「よーし練習再開!花形はまだ戻ってこないのかぁ!?」

早速邪魔をする監督兼キャプテンにそっと溜息を吐いた。

藤真の声に反応して顔を上げたのおでこにキスをして花形は体育館へと戻る。

しばらく、その状況も把握できずにさっきまで花形の顔があったところを呆っと眺めていたの耳に先ほどの花形の声が蘇る。

「うひゃあ...」

頭を抱えてその場に蹲る。

花形と言う人物は、どうやらかなり心臓に悪いようだ。









桜風
08.6.1


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