めぐり逢ひて 5





 カフェで中学時代の話をする。

は自分の中に有る設定をおさらいするように郷田達に話した。

隣で聞いていた歌仙は彼女の様子に違和感を覚える。

付き合いの長さはこの中で最長だ。他の者たちよりも長く彼女の側にあった。

だから、彼女の異変には敏感に気づける。

「トイレって、どこですか?」

郷田が問う。

「ああ、隣の校舎になるね。店内にはないよ」

「ちょっと行ってくる」

「あ、私も」

2人が揃っていなくなった。

は大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です」

歌仙の問いに彼女は頷いた。

「何か、困ったことはないかい?」

「困ったこと、ですか?」

質問の範囲が広すぎて何のことかわからない。

が問い返すと歌仙はひとつ頷き、「僕たちが転生してしまったせいで、君にも影響が出ているような気がしているんだ」と言われた。

「今は何とも...」

そう言って、昨日燭台切たちに話した内容を軽く話した。

「ああ、なるほど。だから、君は先ほど彼女たちに自分の過去を話すのに、凄く慎重になっていたんだね」

指摘されて驚いた。

「そんなに?」

「少し言葉を選んでいた感じがしたからね。まあ、昨日今日会った者に気づかれるほどあからさまではなかったよ。大丈夫」

歌仙はそう言って頷いた。

「君は、他にももう再会しているのかい?」

歌仙が問う。

「昨日、燭台切さんと小狐丸さんには会いました。あと、長谷部さん。今日は、にっかりさんと、岩融さん。今剣さんは、ご存じのとおりです」

「そう」と相槌を打って歌仙は彼女をじっと見た。

「はい?」

首を傾げる彼女に「誰で思い出せた?」と問う。

「燭台切さんです。昨日の放課後は、大きなスーパーに寄り道してみたんです。そしたら、そこで会って。最初はわからなかったんですけど、ふと浮かんだお名前を口にしたら燭台切さんも思い出したみたいで。たぶん、その時皆さんの記憶も戻ったのではないかと思います」

(なるほど...)

歌仙は納得した。

彼女が思い出したから自分たちも思い出せた。それがきっと鍵になるとも言われていた。

鍵を開けたのが自分ではないのが気に入らないが、それでも再会できたのは大きい。

「お待たせー」

戻ってきた郷田が席に着く。

「そろそろ冷えてきたし、お開きにしないかい?」

歌仙が言う。

テラス席なので、気温がそのまま伝わってくる。室内ならまだ粘ってもいいが、が風邪を引きでもすれば事だ。

歌仙の提案に郷田達は乗った。

片づけをして店を出る。

カフェテラスを振りかえるとテラス席にいた鶴丸が手を振ってきた。

は手を振り返し、歩き出す。

「じゃあ、ウチらはこっちだから」

そう言って郷田達は歩き出した。徒歩圏内だと言っていた。

「送ろうか?」

歌仙がに言う。

「大丈夫です。自転車です」

「...わかった。気をつけて」

頷いて歌仙はそう言い、彼女の頭を撫でてバス停に向かって行く。



◆◇



会議が終わり、部活動に顔を出した長谷部が正門に向かっていると駐輪場に向かうの姿が見えて駆けだした。

「主!」

呼ばれて彼女は足を止めて「あ、」と呟く。

「主、こんな遅くまでどうされたのですか」

「主禁止...」

駆けてきた長谷部に彼女は困ったように訴えた。

「あ、」と長谷部も自分の口にした単語を自覚する。

「申し訳ありません」

深々と頭を下げる彼には少し困ったように笑った。

「だから、敬語もダメですよ。長谷部さんの方が先輩です」

「...ですが」

慣れないのだ。

「今は誰もおりません」

訴える長谷部に彼女は首を横に振った。

「だって、とっさに出てしまいますよ」

彼女の指摘はわかるのだが、すでにとっさに出てきているものをどうして抑えられるのだろうか。

長谷部は俯いた。

これは、一種の主命だろう。ならば、それに従わなくてはならない。従えなくてはならないのだ。

「あの、主命ではないです。お願いです」

長谷部の思いつめた表情を見上げて彼女が声を掛けた。

「努力します」

「お願いします」

「それで、はなぜこんな時間まで残っていたのです..だ?」

「...頑張りましょう」

彼の努力は見られる。頑張っている者を責める気はない。

「さっきまで大学にいたんです」

「大学?歌仙や鶴丸に呼び出されたのですか?」

(主を呼び出すなど...)

眉間に皺を寄せながら長谷部が言う。

「あれ?長谷部さんはあの2人が隣にいる事をご存知だったのですか?」

彼女に問われて長谷部は頷いた。

「今日の昼にやってきたから..な。鶴丸はこの学校出身で、数年前の生徒会長だとか。岩融の授業も受けていたようですよ」

「そうなんですね。さっきまで大学にいたのは、友達と寄り道しようって話して。大学のカフェテラスって外部の人も利用できるって聞いたので。

でも、制服で行くとかなり場違いな気がしました」

苦笑して彼女は恥ずかしそうに言う。

「歌仙さんに会ったので、一緒にお店に入ってもらいました。大学生って、大人ばかりですね」

彼女の言葉に長谷部は複雑そうな表情を見せる。

「長谷部さん?」

「いえ、何にも」

誤魔化してふと彼女を見た。

「お荷物をお持ちします」

そう言って手を差し出した長谷部に彼女は首を振った。

「リュックだけです。重くないですよ」

「ですが」と言いつのる長谷部に彼女は首を振った。

「長谷部さん、見てください」

そう言って彼女はその場でくるりと回る。

ふわりとスカートが広がり、ドキリとした。

「ね?」

「申し訳ございません、どういう...」

「わたし、もう一人で歩けます。前に比べて、一人でできる事増えてるんですよ」

そう言われて長谷部は睫毛を伏せた。

そのとおりだ。彼女はもう自分の手を借りなくても一人で歩いて何処までも行ける。

寂しく思う。彼女が不自由だったときにはそれを憐れに思っていた。

だが、その反面、自分を必要としてくれることが嬉しくもあった。

「まだ色々と助けていただくことはあると思います。でも、出来ることはさせてください」

そう言われて「はい」と長谷部は返事を絞り出した。

「そういえば、主」

「...です」

「す、すまない。えっと、

「はい」

「昨日、“設定”とか言っていたが、どういう...」

気になった単語だった。

少し間が落ち、長谷部は不安になって彼女をちらと見る。

「いいましたっけ?」

誤魔化す言葉が返ってきた。彼女は自分たちを心配させないために昔も色々と誤魔化そうとしていた。

それが誤魔化しである事は明白だが、彼女の自分たちへの気遣いも無碍にできず、大抵はその誤魔化しとに乗っていた。

長谷部は溜息を吐き、彼女の頭にポンと手を置いた。

癪だが、よく燭台切や歌仙が彼女にしていた行動だ。気安いと思っていたが、今はそれが必要な環境なのだ。

「困ったことがあれば頼ってください。俺は歌仙や燭台切よりは近くにいます」

「ありがとうございます」

彼女は頷いた。

今はこれが精いっぱいだろう。

「ところで、長谷部さんも遅いんですね。生徒会って忙しいんですね」

彼女に言われて「ああ、まあ」と曖昧に頷く。

今日の用事は生徒会だけではなかったのだ。

「そういえば、何の部活に入るか決めましたか?..決めたのか?」

「まだぼんやりとしか。長谷部さんのお勧めはどこですか?」

「お勧めというか。俺は剣道部に在籍しています。主将も務めていますよ」

それを聞いて彼女は間を空けて「反則!」と声を漏らした。

「反則、ですか?」

「だって。え、だって...長谷部さん強いですよね?」

「ええ、まあ」

地区大会の優勝経験はある。インターハイ出場もこれまで2年間続けて決めているし、今年も行く予定だ。

が剣道部に入部すれば、俺がきちんと基礎から指導しますよ」

そう言われて彼女は苦笑いを浮かべる。

「剣は、遠慮します」

「そうですか?まあ、指導するとなると、厳しくなるだろうし」

「鬼主将とか言われてそうですね」

が言うと「良くお分かりで」と長谷部は笑う。


駐輪場で彼女の自転車を回収して、正門まで並んで歩いた。

支える必要がないのは少しさみしく感じる。

正門を出て彼女は自転車に跨った。

「あ、途中まで一緒に帰ります?」と言われて長谷部は首を横に振る。

「もう暗くなります。ご母堂が心配されるでしょう。どうぞ、俺の事は気にしないでください」

そう言われて彼女は頷く。

「では、長谷部さん。また明日」

そう言って彼女はペダルを踏む。

見る見るうちに彼女の姿は小さくなっていく。

「また明日」

彼女に言われた言葉を繰り返す。

何年も、ずっと待ち焦がれていた。

これくらいの時間離れていようとも、また会える約束ができるのだから。

そう思いながらも寂しく感じている自分は、何と弱いのだろう。

「これで主を守るなど...」

長谷部は小さく呟いた。









桜風
15.7.12


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