| 部活動紹介オリエンテーションのため、午後の授業はなかった。 昼食を摂り、友人と共に講堂に向かう。 入学式のあったそこで、クラスごとに着席した。 この学校は結構コアな部活動もあると聞いている。 特に、武道に力を入れているらしく、良く耳にする柔道剣道以外にもあるのだとか。 「ちゃんは決めてる?」 隣に座る郷田が問う。 「うん、一応。なんとなく」 が頷いた。 「あたしどうしようかな。雲雀は決めてるんだっけ?」 「文芸部。本を書く」 そう返ってきた。 「2人が部活するならあたしもしようかな...」 「誰かに合わせても続かないよ」 邑地が言った。 午後の授業のチャイムが鳴る。 壇上に生徒会長が立った。長谷部だ。 講堂内を見渡して一瞬だけ視線が止まる。 (わかるものだな...) 実際、入学式の時も彼女を見て「あるじ」と声が漏れたのだ。 やはり魅かれるのだ。 このオリエンテーションの趣旨を彼が述べる。 司会は書記が行うこととなっており、書記が各部を呼び上げていた。 まずは文科系ということで、それぞれ四苦八苦しながらパフォーマンスをしながら部活動のアピールを行う。 吹奏楽部や演劇部などはパフォーマンスをしやすいが、他の部となれば中々難しい。 先ほど邑地が入ると言っていた文芸部もイマイチインパクトはなかった。 トイレ休憩として10分ほど休憩となった。これが終われば次は体育会系の番だ。 「そういや、生徒会長さんって部活動してるんだってね。しかも主将」 何処で聞いたのか、郷田が言う。 「剣道部みたいだね」 は一昨日仕入れた情報を口にした。 元刀剣の彼が剣道部なのだ。強いに決まっている。少なくとも、本物の戦場を駆けていた。 (あ、でも、体は前の時と違うし、剣道って型があるんだっけ...) 良くわからないが、そんな話を耳にしたような気がする。だとしたら、今の彼の強さはその経験は関係ないのかもしれない。 一昨日は「反則」などと彼の努力を否定するような失礼なことを言ってしまったかもしれないと反省する。 休憩が終わり、体育会系の部活動の紹介が始まった。 流石に体を動かすことを主としている部なので、パフォーマンスは面白い。 しかし、体育館ではないのでバスケ部は少し地味だった。 体育館ならシュートして見せることができただろうに。 そして、剣道部の番となった。 部活動紹介は副主将が面を外した状態で行う。 そして、静かにもう一人が現れた。すでに面を含めた防具もきちんと付けている。 「じゃあ、オレがフルボッコにされる姿を目に焼き付けてください」 そう言って副主将はマイクを置き、面を被る。 三本勝負と言っていたが、良くわからないうちに三本決まったらしい。 「てな感じで、ウチは去年一昨年とインターハイ出場してるんで。この鬼主将のしごきに堪えられそうな人、募集でーす」 軽い口調で副主将はまとめて剣道部のパフォーマンスが終わった。 「さん?」 隣に座る邑地が声を掛けてくる。 は俯いていた。 「気分でも悪い?席外す?もう入部決めてるんだったら他の見なくても大丈夫っしょ?」 郷田も心配そうに顔を覗きこむ。 「ちょっと、うん。保健室に行く」 「ついて行こうか?私も体育会系にはまったく興味ないし」 「ううん、大丈夫」 そう言って彼女は一人講堂を後にした。 昔のあの時の彼と重なって見えてしまった。そして、なんだか涙が出そうになったのだ。 理由はよくわからない。 嬉しいのか、悲しいのか。それとも、辛いのか... 「」 声を掛けられて振り返ると岩融がいた。 「どうした?」 「何か、ちょっとわからなくなって...」 「...そうか。すまんな」 謝罪を口にした彼はそっとの背を押す。 「保健室に行くのだろう。そこまではついて行こう」 「すみません」 「いや、俺たちが悪い」 ◆◇ 講堂の外で防具を外していると岩融に支えられるように歩くの姿が目に入った。 駆けだそうとして、そこは何とか踏みとどまる。 まだ防具をつけたままだし、これが終われば再び生徒会を代表して締めなくてはならない。 彼女を唯一無二と仰ぎ、彼女の為だけに在ればよかったあの時とは違う。 (窮屈なものだな...) これまで煩わしいと思わなかったことが煩わしく感じるようになる。 それが彼女のせいにされても癪なので、義務は全うするつもりではあるが、少し柵が多い。 オリエンテーションの片づけを終わらせて生徒会室に戻った。 「会長はあれでよかったんですか?」 「何がだ?」 「新入部員、殆ど入らないですよ」 からかうように言われて長谷部意地悪く笑う。 「入った後に出て行かれる方が面倒だからな。悪いが、これからは分の方にも顔を出さなくてはならなくなるから」 そう言って副会長を見た。 「大丈夫。行事は当分ないし。寧ろ、ウチの学校が地方大会三連覇の方が派手でいいじゃない?」 そう言われて「約束はできんがな」と返した。 何せ、いつも決勝で当たっているあの男も剣の名手だ。 思い出すと意外と周囲に色々いて、小狐丸ではないが、少しだけ忌まわしい。 (まあ、いちばん忌まわしく思っているのはあいつだろうがな...) 隣の大学に通っている文系男を思い浮かべて心の中でそうひとりごちた。 ◆◇ 「何だ、保健医は出張か...」 放課後は誰かしら当番でここに詰めるのだろうが、今は誰もいない。 「鍵を取ってくる。少し待てるな」 「はい」 が頷くのを見て岩融は頷き、駆けて行った。 「あー、ダメだな」 そう言いながらずるずるとしゃがみこむ。 「何がダメなんだい?」 「...青江先輩。サボりですか?」 ゆっくり顔を上げて問う。 「うん、サボりだよ。は?今はオリエンテーションだろう?居眠りし放題じゃないか」 そう言いながらにっかりはの隣にしゃがみ込んだ。 「君は駄目じゃないよ」 にっかりは頭を撫でる。 「理由を聞いてないのに、そんなことを言っていいんですか?」 「うん、いいよ。君は自分を責めるときには大して君自身が悪くないのに責めるからね。先手を取って軽減しておくんだ」 「...長谷部さんの剣道を見てしまいました」 「おや、惚れたのかい?」 からかうように言われたが、「いいえ」とは首を横に振る。 (何か、ごめん...) にっかりは心の中でここにいない長谷部に謝罪する。 「じゃあ、思い出してしまったのかな」 「はい。今の長谷部さんはあの長谷部さんとは別の人なのに、重なって...」 「器が別でも、中身が一緒なのだからいいんじゃないのかな?あんまり難しく考えると、胃に穴が空くよ」 「青江先輩は..そういうのないですか?」 「全くないと言ったら嘘になるけど。例えば、主が一人で歩いてるの見て「あれ?」って思うことはある。けど、ひとりで歩けるようになったならいいかって。気楽にしておけばいいんだよ。まあ、その真面目さも主のいいところだとは思うけどね」 「青江、サボりか」 「おっと、教師が来てしまった。サボりの僕は退散するよ」 そう言ってすっくと立ち上がったにっかりはするりといなくなる。 「全く...」 苦笑して保健室のドアの鍵を開けながら岩融は振り返った。 「あいつは、少し気楽に構えている。あれくらいがちょうどいいこともあるぞ」 ドアを開けて「少し寝ておけ」と岩融がベッドを指差した。 「体調不良ではないんですけど...」 「せっかくなんだ。ベッドの寝心地でも体験しておけ。オリエンテーションが終われば主の友人が迎えに来るだろう」 「...わかりました」 頷いてはベッドに向かった。 「なあ、主よ」 「はい?」 足を止めて振り返る。 「...俺たちのせいで主に辛いことがあれば遠慮せずに詰ってくれて構わないのだからな」 彼女は苦笑して「おやすみなさい」と言葉を返した。 「...ああ、おやすみ」 言葉を返し、岩融はそっとため息を吐いた。 |
桜風
15.10.12
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