めぐり逢ひて 拾玖
| 「驚きだな、こんなに兵が隠れていたとは」 愉快そうに呟いた鶴丸は目の前の敵を切り捨てた。 「おしろがもえてます!」 今剣の声に反応して皆が城を振りかえった。 途端、駆けだそうとした仲間たちに「駄目だ!」と鶴丸が強く言う。 「主の厳命だ。この町の安全を確保しないと城に帰ってはいけない。帰りたかったら、町の安全確保だ」 そう言って指示を出した。 「くそっ」 燭台切が思わず悪態をついた。 周囲を見れば、火事に遭ったことがある者が多い。 鯰尾、骨喰、薬研もいた。 「あんたでも悪態をつくんだなー」 愉快そうな声を掛けられてちらと視線を向けると和泉守だった。 「そりゃね。守らなきゃいけない人に守られてるんだから、格好悪くてしょうがない。自分が嫌になるよ」 「まあ、確かに主に火事は鬼門だろうな」 背中を預けて周囲の敵を斬っていく。 「ったく、キリがねぇな...どうやって潜伏させてたんだ」 次から次へと出現してくる敵の姿にそろそろ飽きてきた。 「文句を言っても仕方ないだろう」 イラつきながら指摘する燭台切に 「文句じゃない、感想だ」 とため息交じりに返した。 「あぶないですよー。いえのなかにいてくださいねー」 目の前で何かを切り捨てた少年が振り返って言う。 「ぼうや、君...」 「あるじさまが、このまちのあんぜんをかくほしないうちはかえってきてはいけないっていってるんです。 でも、ぼくたちははやくかえりたいから、がんばってるんですよー。もうちょっとでしずかになりますから、おとなしくねててくださいねー」 軽やかに跳ねて少年が居なくなった。 「あるじさま?」 彼の言葉で思い当たるのは、いつの間にか出現したあの城の事だ。 気味が悪く、正直近づきたくない。 ただ、あの城に住んでいるという少年たちは礼儀正しいし、大人たちも印象が良い。 たまに、怖そうな人もいるけど、そんなに悪い人には見えない。 「西は殲滅した。確認したが、敵の姿はもうない」 「東も」 「南がまだ戻ってきていないな、援護に向かってくれ」 四方に分かれて敵の殲滅を行っていた彼らはいったん町の中心に集まって状況報告を行っていた。 殺気立つ小狐丸を宥めながら主である彼女の命令に従う。 「火が、少し小さくなってないか?」 「まさか、城が燃え尽きたってわけじゃないよな」 和泉守の空気を読まない呟きに皆がジロリと睨んだ。 結局、彼らが城に戻れたのは空が明るくなり始めた頃になった。 一晩中町の中で戦い続けた彼らは疲労困憊で、だが、城に戻っても敵が残っている可能性もある中で、緊張しながら門をくぐり、そして息を飲んだ。 城は燃えていた。 だが、無事な個所もある。寧ろ、半分くらいは無事だった。 「あー、おっかえりー。風呂は無事だから入っといで」 さっぱりした表情の次郎が声をかけてきた。 「これは、一体...」 「あ、薬研がいるね」 呆然と呟く疑問に答えず、次郎は薬研を見つけた。 「俺っちに何か?」 「大和守ー!薬研帰ってきたよーーー!!」 城の奥に声をかける。 すると猛然と駆けてくる足音が聞こえ、「来て!」と手を引っ張られた。 靴を脱ぐことができないまま、土足で彼は廊下を走り、そして、とある部屋に連れてこられた。 「薬研、連れてきた」障子を明けながら大和守が言う。 「こいつは...」 布団の上に寝かせられているのは加州で、酷い火傷を負っている。 「手入れ部屋が焼かれてね。今手入れができないんだ。だから、人間の体と同じような対処しかできないと思う。 何かいい薬はないかな」 歌仙が言った。 ふと加州の枕元に視線をむける。 「大将?!」 思わず薬研は声を上げてしまった。 彼女も煤で汚れており、何より髪が短くなっている。 「ほら、主。薬研が帰ってきたから、君は眠りなさい。約束だっただろう?」 歌仙が促すが、彼女は首を横に振る。 「薬研が帰ってきたら休むから、それまでは加州の側にいると君は言ったね。薬研が帰ってきたら休むんだね、と僕が言うと君は頷いたね。だから、僕はさっきまで何も言わなかったんだよ。さあ、約束を守って」 そう言った歌仙は、頑として動こうとしない彼女を抱え上げ、「後は頼んだよ」と声をかけて部屋を出て行った。 部屋を出ると、足元にこんのすけがいた。 「審神者様。向こうからの招集です」 「わかりました」 こんのすけの言葉に驚いたが、素直に返事をした彼女にさらに驚く。 「ちょっと待ってくれないか。主は昨晩一睡もしていないんだ。敵に襲われもした。休ませなくては」 「急を要する招集です」 歌仙の言葉を汲む様子が微塵もないその言葉に歌仙はこんのすけを睨みつけた。 「歌仙さん、おろしてください。こんのすけさん、向こうに行くにしても急です。少し状況を教えてください」 彼女が言う。 「主!」 休むように強く勧める歌仙だったが「皆さんに、広間に集まるように声をかけておいてください。集まれる方だけで結構です」と彼女がいう。 「...わかったよ」 そう返して歌仙は大股でその場を離れて行った。 「ねえ、俺たちの部屋がないんだけど」 一旦自室である脇差の部屋に向かった鯰尾が声をかけてきた。 「あー、延焼を防ぐためにぶっ潰していいって主が言ったからね」 笑いながら次郎が言う。 「正確には、燃えている部屋の隣の隣の部屋を落とせということだったんだけどね。 丁度、そこが脇差の部屋だったんだよ」 同じく破壊活動に従事した石切丸が補足する。 延焼を防ぐためと言われて文句が言えない。 ただ暴れてこうなったと言われれば一言文句を言えたかもしれないというのに... 「しかし、手入れ部屋が燃えてしまったのは辛いな」 「加州、どうなるのやら」 一通りの話はこの部屋の中にいる者たちにはしている。加州が重傷であることも含めて。 どたどたと足音が聞こえて障子がパシンと開いた。 どんな粗忽者が、と思ったが歌仙であったことに皆は驚いた。 「動ける者は広間へ」 一言そう言って去っていく。 「珍しく荒れてるなぁ...」 誰かがポツリと呟いた。 広間で彼女が来るのを待っていると障子が開いた。 姿を現した彼女に皆が息をのむ。 「ちょっと、休んでないの?!」 次郎が言う。 彼女は「大丈夫です」とその問いを躱した。 「ぬしさま、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」 小狐丸が唸るように言う。 憤怒の表情の彼を怖いと思う。だが、怖いと思っている事を悟られてはいけないと理解している。 「落ち着いてください、小狐丸さん」 静かに言った。 「その御髪は..誰にやられました」 バッサリと切られている。乱暴に、雑に。 「自分で切りました」 彼女はそう答えた。 何ひとつ嘘を言っていない。 そして、その声音は質問を重ねることを許していないことがわかるそれだった。 「さて。先ほど、お上に呼び出されましたので、これからしばらくの間留守にします」 彼女のその言葉に部屋の中がざわめく。 「暫くってどれくらい?」 「...わかりません。 実は、昨晩。こちらに襲撃があった時刻とほぼ同じ時刻に各地の審神者も襲われたそうです」 「各地の?」 「あとで説明する」 昨日の彼女の話を聞いていなかった者が疑問を口にしたが、歌仙がそれを制した。 「それで、多くの審神者が亡くなったり、重傷で今も生死の間を彷徨っていると聞きました。 そこで、今動ける審神者を集めてその時の状況を聞取り、詳しく分析して対策を考えるということになったそうです」 「帰ってきますよね」 不安そうに五虎退が声をかけてきた。 「わたしが帰る家はここしかないので、帰ってこさせてください」 彼女はそう言って笑った。 「というわけで、近侍はこのまま歌仙さん。つまり、わたしの持つ決定権も歌仙さんに預けます。何か問題が起こったら歌仙さんに相談 してください。 みなさん、喧嘩をしてはダメですからね」 彼女はそう一言付け足した。 生活環境がこれまでと違ってしまうので、これまでよりも衝突があるかもしれないと思ったのだ。 「加州さん以外に、重傷の方はいらっしゃいませんよね?」 彼女が室内を見渡すと皆が頷いた。 だが、軽傷者は多くやはり手入れ部屋は喫緊の課題となるようだ。 「また襲撃があるかもしれません。城は放棄しても構いません。皆さんが無事でいてくれさえあれば、わたしは充分です。住むところなんて、また見つければいいんですから。もし、この城を放棄してもきっとわたしは皆さんと再会できますから」 「根拠は?」 にっかりが問う。 「ありません。でも、会えるんです」 彼女はそう言い切った。 「では、行って来ます」 そう言って彼女は歌仙の手を借りて立ち上がる。 向こうとこちらを繋ぐ入口のある塗籠は、無事だった。 おそらく何かしらの力が働いているのだろう。 彼女を抱えて歩いていた歌仙は、一旦彼女を下ろす。 部屋自体消失してしまったため、塗籠の扉が少し高いところにあり、しかも鉄の扉なので、両手を使わなくては開けられない。 扉を開けて彼女を塗籠の入口に降ろした。 「必ず帰ってくるんだよ」 歌仙の言葉に彼女は頷いた。 式神を呼び出し、手を借りて扉を閉めた。 |
桜風
15.12.2
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