めぐり逢ひて 弐拾弐





「主がお見えだ」

先に広間に入って先触れとして歌仙がいい、それに続いて彼女が広間に足を踏み入れる。

彼女の姿に室内の空気が変わった。戸惑いと喜びが入り混じっており、少し複雑になっている。

何より、歌仙の外套を彼女が羽織っている事に殆どの者が少なからず驚いた。

「さて、主」

歌仙に促されて彼女は頷いた。

「まずは、半月近く留守にしていたことをお詫びします。

では、わたしが向こうで聞いた話について、皆さんにもお知らせします」

そう言い置いて彼女は話をした。

あの日、各方面・各時代の審神者が襲撃を受けたという話は、招集に応じる前に話をしていたが、その詳細について情報があったのだ。
「皆さんの中にはご存知の方がいると思いますが、その方は再度の情報確認ということで」

そう言って彼女は審神者を失った刀剣男士の変化について話をする。

初めて聞いた者の方が多く、動揺が走った。

「てことは、俺たちもアンタを失ったらあちら側に行くという事か」

「そうなります」

彼女は頷いた。

「今回の襲撃で、今残っている審神者のうち、2割を失ったそうです」

「それは大きな数字なのかい?」

にっかりが問う。

「数字としては、小さくありません。
元々連絡が付かなくなっていた審神者が1割程度いて、それが審神者のままであちら側に着いたのか、それとも命を落としたのかはわからないそうです。
そして、今、審神者の資格を有している者たちは国中から探し出した結果なので、これ以上はいません。居たとすれば、まだ意思疎通のできない赤ちゃんくらいだと聞いています。
さすがに、皆さんと意思疎通のできない者を審神者として送ることはできませんからね」

「審神者のままあちら側に着くことはあるのかい?」

燭台切が問う。

「はい。現に、こちらを襲撃した者の中に、審神者がいました。ただ、彼が連れてきていた刀剣男士は別の手段で堕とされていたようです」

「堕とされた?」

「わたしが言うのも、少し気が引けるのですが...刀剣男士の皆さんは、審神者を主と敬してくださっていると思います。

襲撃した審神者が供として連れてきていた彼らは、彼の事を主として守ろうとはしませんでした」

彼女の言葉に、再度部屋の中に動揺が広がる。

「俺が対峙した俺の姿のあいつもそんなことを言ってたよ」

ふいに加わった声に皆が振りかえった。

「加州?!」

長谷部が声を上げた。

彼女も驚き、目を丸くしていたが、視線を滑らせて大和守を見ると彼は肩を竦める。

無理を押してきたのだろう。

「あんた、どうやって...」

「加州さんの回復の話は、あとで説明します。話を戻してもいいでしょうか」

彼女が言うと加州を振りかえっていた皆は彼女に向き直った。

「ねえ、主。なぜ主..審神者を失えばあちら側に行くの?その原因が分かったら戻せるようにならないかな?」

手を挙げて乱が言った。

「これも、わたしが説明するのも僭越なのですが...荒魂・和魂という言葉をご存知でしょうか」

頷く皆を見て彼女も頷いた。

「刀剣は、その身を守るためというよりも、誰かを傷つけるために作られるものと考えられています。だから、刀剣の付喪神である皆さんは少しだけ荒魂が強いらしいのです。
審神者は和魂を供給する役割を持っているそうです。そうして、皆さんの魂の均衡を保っている状況と聞きました。
だから、その均衡を保てなくなった刀剣男士は、本来強い荒魂が求める破壊に行動が向かうことになり、歴史を壊してしまおうというあちらの目的に合致してしまうそうなんです」

「でも、それなら..主さんが主さんの時代に戻っている間はその供給というのが無くなってるはずだから、僕たちは危うい状況という事なんですか?」

堀川の言葉に彼女は首を横に振る。

「量は減ってしまうかもしれませんが、供給はされています」

「どうやって?」

誰かが聞いた。

「縁です」

彼女の言葉に彼らは首を傾げた。

「わたしは、皆さんと縁を結ぶことでお呼びすることができるんです。一度結んだ縁は簡単には切れません。その縁というものが繋がっているので、わたしが向こうに行っていても皆さんが堕ちることはありません。まあ、こちらに居るときに比べれば供給量が減ると思いますので、諍いは増えているかもしれませんけど」

彼女が言うとぎくりと心当たりのある者たちは肩を震わせた。

「では、この先も我々に似た何かからの襲撃の可能性はあるという事なんだね」

にっかりの言葉に彼女は頷いた。

「同時に多方面に襲撃ができるということは、高い兵力を備えていると考えていいと思います。この辺は兵法的な話になるかもしれないので、皆さんの方が詳しいでしょうが。
そして、もうひとつ。
...そういえば、皆さん、わたしがいない間の出陣は?」

ふと思い出した。

「してないよ。負傷をしてしまった場合に手入れ部屋が使えないからね。戦力が減っていくだけで、また襲撃があった時に反撃できないと拙いと考えたんだ」

それを聞いて彼女はほっと胸をなでおろす。

「どうかしたのかい?」

「実は、別の勢力が出てきたらしいのです。これは、まだ報告が少ないので、情報収集をしているところだと聞いています」

「別の勢力?」

「はい。これまで戦っていた敵よりも一段と強いと聞いています。その勢力は、審神者、歴史修正主義者問わず攻撃してくるそうです。

お上はそれを便宜上“検非違使”と呼んでいるらしいのですが...検非違使って治安を守る組織の事なので、わたしとしては、少し違和感があるんですけどね」

彼女は肩を竦めてそう言った。

「一段と強いとは、具体的には?」

「皆さんよりも武力がある部隊が余所にはあるのですが、その部隊が這う這うの体で撤退をしたと聞きました」

「戦術的にまずかったんじゃ...」

自分たちがあまり強くないと言われたような気がして反論した者がおり、彼女は首を振る。

「わたしは、皆さんを弱いとは言っていません。仰るように戦術的な話もあるとは思います。ですが、警戒するに越したことはないと思っています。
その検非違使は突如現れるそうです。敵と遭遇して戦闘が始まろうとしたときにどこからともなく現れ、わたしたちの敵を倒した後、攻撃をしてきたということもあったそうです。
目的が良くわからないし、それが現れる条件も不明です。ただ、味方ではないという事だけは確かなようです」

「やれやれ。問題が山積みだね」

首をゆるゆると振りながら歌仙が呟いた。









桜風
15.12.27


ブラウザバックでお戻りください