めぐり逢ひて 弐拾参
| 今度は、彼女が留守にしていた間の報告だと言って、歌仙がその場で報告をした。 城下の者が礼をしに来たこと。 手入れ部屋は取り敢えず再建していること。 皆の諍いの事は、先ほどの彼女の説明を聞いて仕方ないと思って省略した。 確かに、これまでも彼女がいない間は諍いが増えていたが、今回は特に多かったと思う。 城が大変な状態なのに彼女が不在となったことが、その大きな原因だろう。 「手入れ部屋、再建できたんですか?」 「城下の大工に頼んだよ。小屋が元に戻れば手入れができるようになるかと思ったんだ」 苦笑して歌仙が言う。 そんな単純な話ではなかった。 「手入れ部屋は、小屋にも呪い(まじない)を掛けているらしいです。取り敢えず、小屋の再建が終わったら術者を寄越すから連絡を欲しいと言われていました。後でこんのすけさんにお願いしておきますね」 彼女がそういうと「そうだ!」と愛染が声を上げた。 「んで、何で加州がいるんだよ?主、また鍛刀したのか?」 そう問われて彼女は「違います」と少し強い声音で言った。 「俺、主に治してもらったんだよ」 加州が誇らしげに言った。彼女自ら手入れをしてくれた。愛されている証拠だ。 ただし、自分自身は覚えていないが... 「え、主。どういうこと?」 次郎が問う。 「えーと。これは、完全にわたしの勉強不足だったのですが...審神者って手入れができるらしいです」 そう言った後、「ごめんなさい」と勢いよく頭を下げた。 「え、どういうこと?」 理解が追い付かない。 「向こうに行ったときに、手入れ部屋と加州さんの話をしたら、「加州を直すくらいしてきたらよかったのに」と言われて、初めて知りました。でも、すぐにこちらに帰してくれなかったので、役人さんは意地悪だとも思っています。 話を戻して。どうやら、他の審神者は取り敢えずやってみたとか、審神者なんだからできて当然だろうみたいな感じで、1回は試していたらしいのです。 わたしは、それを怠ってしまって...本当にごめんなさい」 彼女を責めるつもりなど皆には毛頭なかったため、誰も憤っていない。 「なあ大将、顔色が悪いぜ。少し休んだらどうだ?」 向こうから帰ってきて加州を直して皆に話をして、と彼女は忙しくしていた。 顔色は、ほんのり血色がよくないくらいではあるが、薬研が提案する。 このままそこに座らせておけば謝罪を繰り返すだけになりそうだとも思ったのだ。 「そうだね。主、仮の部屋に案内するからおいで」 「ひとまず、お話はこれで終わりです。また質問とかあったら部屋に来てください」 そう言った彼女は歌仙の手を借りて立ち上がり、広間を後にした。 「今度からぬしさまに手入れをしていただこう」 浮足立って小狐丸が言うが、大和守が「やめといた方がいいよ」と水を差した。 「何故?」 小狐丸は少しだけ不満そうに問う。 「主、さっき清光直した後、凄く疲れてたもん。まあ、清光が破壊寸前の重傷中の重傷だったから、という可能性もあるけどね。 主に直してもらうのは最後の切り札くらいに思ってた方がいいんじゃないかな?余所の部隊は知らないけど、うちの主は少し体力なさそうだし。 普段から和魂ってのを供給してくれてるのに、更に何かを求めて主を疲れさせるのは出来れは避けたいってのが僕の意見だけど?」 それを聞いて皆は頷く。 多少、承服しがたい者たちもいたが、人間というものは脆い生き物である事を理解しているため、何とか頷いた。 「でもまあ、誰も手入れを望まないことで主が気を落とすことがあるかもしれないよね。 その時は、誉を最も多く取った者のみ、その褒美として手入れしてもらうとかどうだい?」 にっかりが愉快そうに提案をした。 「乗った」と皆が納得した。 「主は無傷で帰ってくるのを望んでるだろうけどね」 肩を竦めて燭台切が言うが、取り敢えず誉を取った時の褒美が決まったので皆のやる気は俄然高まった。 「歌仙さん、わたしの杖は..大丈夫ですか?」 火の近くに置いたまま放置してしまったので一部焼けてしまった。 「すまないね、今修理に出しているんだよ。暫くの間また不便になるけど我慢してくれるかい?」 「皆さんに迷惑をかけてしまうことが心苦しいですが...でも、直りそうですか?」 申し訳なさそうに、不安そうに彼女が言う。 「職人は直るって言ってるからたぶん、大丈夫だと思う。どうしても駄目だったときは、また皆から贈らせてもらってもいいかな?」 歌仙が一応確認した。 彼女の事だからもういらないというかもしれない。気持ちだけで充分だとか。 「ありがとうございます」 彼女は彼らの想いを受け取ると頷いた。 歌仙はほっと息を吐く。 「さあ、ここが君の仮の部屋だ。前よりはずいぶん狭いけど、我慢してくれないかな。あと、隣が僕たちの部屋になってしまうから、時々うるさくしてしまうかもしれないけど」 打刀の部屋が隣という。 「大丈夫ですよ」 彼女は笑った。 「あ、言うの忘れていました。歌仙さんの近侍は解除とさせていただいてもいいですか?」 「お役御免という事かな?」 歌仙は困ったように笑う。 「いえ、たぶん..わたしがいない間色々あって、お疲れなんじゃないかなって思って」 彼女の指摘に彼はまた笑った。 「ご明察。まあ、君の名代だと思ったらさほど大変でもなかったけどね。手伝ってくれる人たちもいたし」 「良かった。人間関係、いい感じですね」 彼女の言葉に歌仙は「そうだね」と苦笑した。 「そうだ、歌仙さん。料紙と筆を墨を」 「もう用意してあるよ。こんのすけは君が呼べば傍に来るんだよね」 「はい」 「では、文を認めたら横になると良いよ。薬研が言ったように、確かに顔色は良くないからね」 歌仙の言葉に彼女は頷く。 「主、茶を持ってきたよ」 一旦退席した歌仙が戻ってきた。 障子を開けて彼は苦笑した。 「横になるといいと言ったんだけど...」 彼女は文机に突っ伏していた。 歌仙は寝所を整えて彼女を寝かせる。 「主、帰ってきてくれてありがとう」 起きているうちに言うと「帰って来ますよ!」と怒られそうなので、彼は寝ている彼女に対して感謝を口にした。 |
桜風
16.1.10
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