めぐり逢ひて 弐拾伍





案内された店は、確かに少し古ぼけた感じがしている。

ただし、店内に入った時の空気感というか、雰囲気が先ほどの店とは全く違った。

次郎が彼女を見降ろすと同じように感じていたのか、彼女は頷く。

「オヤジ、お客さん」

「こんな廃れた店に客なんて連れてくんな」

ガハハと笑って店主が応じていた。

「んじゃ、団子忘れんなよ」

少年はそう言って店を後にした。

「いらっしゃい。何をお求めで?」

「ウチの主の着物。この子が背格好が同じだし、主の側仕えをしているから好みも把握してるんだ。この子に合わせた着物を誂えることはできるかい?できれば10日程度で」

そう言われた店主は彼女を見た。

「と言ってもなぁ...うちはばあさんくらいしか来ないから、年頃の娘さんが着ることができるような流行の反物は...」

そう言いながら店主が出してきた反物は確かに色味が大人しい。

「ちょいと触ってもいいかい?」

「どうぞ」

反物の生地を触った次郎はにやりと笑い、

「白生地、置いてるよね」

と聞いた。

「それで10日?」

店主が笑う。

腹の探り合いを始めた感じだ。


暫く交渉が続き、「仕方ない」と店主が折れた。

「よっし!」と次郎が拳をぐっと握った。

「それでね、店主。あそこの棚の中。いい反物が入ってるでしょ?それこそ、若い娘さんに合うような」

「お客さん、鼻が利くねぇ...まったく」

苦笑しながら店主は立ち上がり、次郎が指差した棚を開けて反物を取り出した。

「ウチの主ってね、基本的に人前に出ないんだよ。でも、今回城を直すのに尽力してくれている城下の代表者に礼を言いたいって。その時に、まあ、城主らしい着物着せてあげたいでしょ。本人はそんなこと気にしてなかったけど、箔は必要だと思うんだ」

店主はちらと彼女を見た。

どうやら勘付いているらしい。

「娘さん、どの反物がいい?」

「これです」

店主が持ってきた瞬間、気に入った反物があった。

可愛らしい小さな花が散っている。何となく派手な印象があるが、どうしてもこれがいい。

「あ、ても。高いですか?」

窺うように次郎を見る彼女に苦笑して、彼はぽんぽんと安心させるように彼女の頭に手を置く。

「店主、これで」

「出来上がりはお持ちしましょうか?」

「いや、また来るよ。この子と」

次郎が言うと店主は頷き、「では、合わせさせてください」と彼女に視線を向けた。

「足元に気をつけてくださいね」

杖を置いてかまちを上がろうとした彼女を止めて店主は一旦下がった。

やがて戻ってきた彼の手には濡れた布があり、彼女の杖を拭く。

「どうぞ、それを使っていただいて構いません」

「ありがとうございます」と礼を言い言葉に甘える。

「アタシはここで待ってるからね。何かされそうになったら叫びなよー」

ひらひらと手を振って次郎が言う。

「こんな老体に何を言うんだか...」

苦笑して店主は彼女を奥の部屋に連れて行った。


暫くして戻ってきた彼女を次郎は抱えて降ろす。

「では、出来上がりは10日後」

「...本当にできる?」

言ったはいいが、結構きついと思う。

「ウチに二言はありませんよ。また贔屓にしてもらえれば、助かりますがね」

「いい仕事をすれば贔屓にさせてもらうよ。主に着物を見立てたい馬鹿どもはまだたくさんいるからね」

「それはそれは」と店主は苦笑し、「またのお越しをお待ちしております」と両手をついて彼女たちを送った。


町の大通りに出た。

「どこか寄りたいところある?まだ時間は早いし」

まだ日が高い。夕刻には戻ると話をしているのだ。

「わたし、外に出たことがないのでどこも物珍しいというか...」

「じゃあ、ちょっと歩こうか。疲れたらいうんだよ」

次郎がそういうと彼女は嬉しそうに笑った。

暫く歩いていると彼女が足を止める。

その視線の先を辿って次郎は「行ってみようか」と声をかけた。

出店があり、そこに並んでいるのは縮緬小物だった。

「これ、何ですか?」

次郎に彼女が問う。

「財布だね」

「お財布...」

彼女がじっと見ているそれを手に取り、「これ、貰うよ」と言って次郎が支払いを済ませる。

「ほら、あげる」

そう言って彼女に渡した。

「も、貰えません」

慌てた彼女に「もう買っちゃったから」と彼は言う。

「でも、わたし、お金持ってないし」

「小物を入れてもいいし。気に入らなかった?」

次郎の問いに彼女はぶんぶんと首を横に振った。

「じゃあ、貰って。次郎さんからの贈り物」

「大切にします」

ギュッとそれを抱きしめる彼女に「よし」と次郎は頷いた。

彼女の歩く速さだと城まで時間がかかりそうなので、帰ることにした。


少し早めに戻ったにもかかわらず、城門前では、彼女の帰りを待っていた者たちがおり、次郎は苦笑する。

夕餉の後に、彼女が改めて礼を言いに来た。

「良いのに」と笑った次郎はふと思いついた。

「ねえ、主」

「はい」

「主の時代では、今日みたいに一緒に出掛けたりすること、何か呼び方ある?」

(こっちでいうところの逢引の事なんだけど)

心の中で付け足す。

「デート、ですかね?」

「でぇと?それ、主はしたことある?」

「ないですねぇ」

しみじみという。

「そっかー。次郎さんが初でぇとのお相手かー」

何だか嬉しそうに呟いた彼は「またでぇとしようね」と言ってどこか上機嫌にその場を去って行った。









桜風
16.2.20


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