めぐり逢ひて 弐拾玖





城の修繕のついでに改修工事も行った。

元々大きな部屋が多く、基本的に相部屋になっていたのだが、どうせ職人が入るのだし可能なら改修工事も依頼して部屋の仕切りを増やして個室も可能なようにしてはどうかと彼女が言ったのだ。

ついでに、自分の使用する部屋もさほど大きなものでなくていいので、皆と似たような部屋の造りにしてもらえれば、今回仕事に入った職人に城主の部屋が判明しないで済むのではないかと思ったのだ。

彼女の提案に反対する者はなく、そそくさと部屋割りを決め始めた。

また、彼女の希望で寝ずの番はなくなった。

正しくはなくなったのではなく、隣室を当番の者の部屋にしたいというのだ。

「わたしだけ寝て、外で寝ずに当番をしてくださっているのが申し訳ないです」

そういう。

この寝ずの番は、要は夜半に襲撃があっても彼女を守れるようにという意図のものであるため、大雑把にいえば、彼女の側に居て何かあっても仲間がたどり着くまでに彼女を守るということが目的である。

よって、彼女の希望は目的を違えるものではない。

隣室に控えの間を置くことについて概ね話がまとまり始めた頃に、

「えー!あるじさまといっしょにねたいです」と不満を漏らした今剣の一言でその場は紛糾した。

「今剣、どういうことだ」

眉を吊り上げて長谷部が問い詰める。

「ぼくは、あるじさまといっしょにねてるんですー」

ざっと視線が集まり、彼女はのけ反った。

「あ、あれ。だめでしたか?短刀って、一緒のお布団で寝てたって...」

確かに“短刀”、つまり彼らの本体なら何の問題もない。

だが、今は人の形を取っている。見てくれは子供だが、実際は子供と呼ぶのに聊か抵抗感があるほど長い時間現世に在った。

「ぬしさま、私も」

そう言ったのは小狐丸で「太刀は一緒のお布団で寝てなかったですよね?」と指摘されて項垂れる。

両手両膝をついて「短刀に生まれ変わりたい」などと呟いていた。

「じゃあ、俺ならいいよね。太刀ほど大きくないし」

「打刀も聞きません」

加州の言葉を彼女は否定する。

「主が“人類最初の打刀と添い寝を果たした審神者”でいいじゃん」

「“添い寝”で終わるならねー」

大和守が茶々を入れる。

殺気立つ広間で彼女がパンパンと手を打った。

「だから、隣室を用意するって話を始めたんじゃなかったですか?」

「あるじさま、ほんとうにもうだめなんですか?」

うるうると見上げられて彼女は視線を外す。

「大きな大人たちが、大人げないので子供が大人にならなきゃいけないんですよ」

彼女の言葉に小狐丸は恨めし気な目を向けてきた。

「ぬしさま、どうして短刀はよろしいのですか?一緒に寝る短刀は、“短刀”で、その者たちではありませぬ」

「...小さな子供は早く寝ないと大きくなれないんですよ?」

首を傾げて彼女が言う。

「ぬしさま、目を覚ましてください。そやつらは、もう大きくなりませぬ!それが目いっぱいの大きさです」

そう指摘されて彼女は「あ、」と気が付いた。

傍にいた今剣を見るとかわいらしい顔を曇らせて不安げに見上げいる。

「仮に皆さんの姿が完成形だったとしましょう」

「完成形です」

彼女の言葉に、一応小狐丸が念を押す。

「でも、小狐丸さんは駄目です」

「なにゆえ!!」

物凄い勢いで彼女の元にやってきた小狐丸が縋りつく。

「だって、体が大きいじゃないですか」

彼女の言葉に「ん?」と周囲が首を傾げた。

長谷部だけは、「不敬だ」と言いながら小狐丸を彼女から引きはがそうとしている。

「わたしのお布団ってそんなに大きくないんですよ。短刀の皆さんなら一緒に寝られますが、それでもギリギリです。
それ以上の大きさの人だったらはみ出ちゃいますから」

部屋の中が静寂に包まれる。

「あ、だから。隣室のお布団は一番大きな人..太郎さんに合わせて誂えなきゃいけませんね」

彼女は慌ててそう言った。

「ちょっと待って、主。本当にそれだけ?」

次郎が言う。

「はい?」

「布団?褥の事ね。褥の大きさだけが問題って事?」

「...はい」

何か間違っているらしい。

大きな人たちが盛大なため息を吐いている。

(これは、叱られるパターンだ...)

それなりに長くここの城主なるものをしている彼女は、彼らのお小言を聞きなれた。

常識を知らないことの多い彼女は彼らから色々教えてもらっている。

歩く姿勢、箸や椀の持ち方など。

彼らの元主は城主など、それなりの教育を受けている者が多いため、彼らの見てきた者は一級品だ。

それを伝授してもらうい、身に着けている彼女はそれなりのものになっている。

「主、いっかい危ない目に遭ってみようか」

軽くそう言ったのは次郎で、「やめろ」と周囲が止める。

「とにかく。短刀であっても、男子です。自重してください」

長谷部が言う。

「駄目だそうです」

「ざんねんです...」

これまでが確信犯であったのか、今剣はそう言って思いのほかあっさり引き下がった。


城の修繕だけではなく、他の工事も依頼したため作業期間は長くなったが、丁寧な仕事で後で継ぎ足したという感じもみられない立派なものとなった。









桜風
16.3.26


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