めぐり逢ひて 参拾





城の修繕が終わり、本日棟梁と城下の代表者と会うことになっている。

城の修繕に尽力してもらったことに対する礼を直接言いたいと彼女が望んでいたのだ。


朝食を控えめに摂った彼女を「じゃあ、楽しみにしてなさーい」と言って次郎が連れて行く。

“主を着飾り隊”などと自称している次郎、加州、乱が彼女の支度の手伝いをするというのだ。

式神にお願いするから、と彼女は言ったが

「こんな機会滅多にないんだから!」

と次郎が譲らず、着物を見立てた時に同行してもらった経緯もあって彼女は頷いた。

いつの間にか加州と乱まで参加していて驚いたが、もうどうにでもなれという気持ちもある。



「主の髪、どうする?」

加州が言う。

一通り着物は着替え終わった。

「これ、ダメですか?」

彼女が問う。

「駄目じゃないけど...ねえ、どうしようか」

加州はそう言って次郎に意見を求める。

「じゃーん」と言って次郎が風呂敷から取り出したものを見て彼女は首を傾げる。

「それ、何ですか?」

「髢」

「かもじ?あ、付け毛ですか」

「そう。主、棟梁と結構話してたし、一般的に城主様、姫様は髪が長いからね。変装しておかないと」

そう言って彼は上手にそれを彼女の髪になじませる。

「簪、どうしようか。せっかくだし、とことん攻めたいよね」

次郎が言う。

乱が次郎の持ってきた簪を手にとっては「これじゃない」などと言って思案していた。

「あ、乱さん」

「なに?」

簪を並べていた彼が返事をする。

「わたしの部屋、入ってすぐ右手に葛籠があります。その中に、これくらいの木の箱があるので、それを持ってきてください」

彼女に言われて乱は部屋を出て行った。

「何?」

「貰いものです」

加州の問いに彼女は返す。

次郎から財布をもらって以来、皆が何かしらくれる。

次郎のを受け取って他のを断るわけにはいかないので、受け取ってはいるが、心苦しい。


「主、これ?」

間もなく戻ってきた乱が持ってきたのは、まさしく彼女が求めていたものだった。

「それです」

彼女は頷き受け取る。

華の文様の彫が入っている木箱を開けて中に入れている布に包んだ簪を取り出す。

「これ、どうでしょうか」

「ああ、合うんじゃない?これ、花菖蒲?」

「そうみたいです」

「ふーん」と言いながら次郎が彼女の髪にそれを挿した。

「あ、いいかも」

少し離れたところから見た加州がいい、「主に似合ってる」と乱が頷く。

「そうだね。アタシのは少しゴテゴテしてるし、こういう簡素な感じは主に良いね。誰の見立てかわからないけど」

彼らは誰が何を贈ったなどは聞かないようにしているようだ。そういう、不文律ができたようで皆が等しく知っているのは次郎からの財布のみだった。



「できたよー」

皆の待つ控えの間に彼女を連れて来た次郎が言う。

現在、彼女は次郎の後ろに立っているため、次郎が邪魔だと皆の顔に書いてる。

「さ、主」

そう促して次郎は一歩右にずれた。

部屋の中がにわかにざわめく。

「変、じゃないですよね」

「当然でしょ!」「当たり前じゃない!」「何を言ってるの!」

着飾り隊が一番に声を上げた。自分たちが仕上げたのだから、変なはずがない、と。

「あるじさま、きれいです」

「美しいです、主君」

短刀たちが素直に褒める。

「化けたなー」と呟いたのは和泉守で、「兼さん!」と堀川に窘められていた。

彼女の簪を目にした長谷部は瞠目し、そして喜びを噛みしめる様にまつ毛を伏せる。

「いつもと全く雰囲気が違うから、少し驚いたよ」

そう言いながら歌仙が手を差し出した。

側付きの者として、共に部屋に向かうのだ。

「部屋に入るところからは、自分で歩きます」

彼女が言う。

「大丈夫かい?」

「はい。杖は、棟梁が目にしていますから。短い距離なら、何とか...」

不安げに見守る彼らを見渡して彼女は笑った。

「大丈夫です」


「主が参られた」

先に謁見の間として使用する部屋に城下の代表と棟梁を通していた。

先触れとして歌仙が部屋に入り、彼女が続く。

俯き加減になって口元は扇子で隠すように、と指示されたので、座って早速扇子を広げた。

これで顔の大半はわからない。

彼女の発言は側付きの歌仙を通して行うという事にした。

なるべく城主の側仕えの彼女との共通点は見せないようにしようという事だ。

城下の代表者の挨拶に彼女は歌仙を通して応える。

実際は、何かを伝えているふりをして歌仙が答えている状況だ。

「城主さん」

棟梁に声を掛けられて彼女は視線を向ける。

城下の代表者は突然棟梁が城主に直接声をかけたことに驚き、謝罪をしていた。

「あんたの側付きのお嬢ちゃんは元気か」

「あの者なら元気だ」

歌仙が代わりに答えた。

「側付きのあの嬢ちゃんを連れていないってどういうことだ?」

挑むような目で言われた。

「申し訳ございません」と平伏する城下の代表は青ざめている。

あまりに不敬が過ぎると切り捨てられかねない。

実際、隣に部屋に控えていた彼らの一部の者たちは刀の柄に手を置いた。

「こういう場が苦手なのです」

歌仙に一瞬緊張が走った。彼女が言葉を発したのだ。

「なら、何でそんな娘を側仕えに置いてるんだ?」

棟梁が問う。

「気に入っているからです」

彼女が返す。

「嬢ちゃんはどうなんだ。この城ができてから嬢ちゃんが城下に来たのはやっと最近になってからの事だそうだ。何で今まで姿を見せなかった。この城の坊主どもはウロウロしてたってのに」

おそらく棟梁は、城主の側仕えとして彼に接していた彼女と目の前の城主が同一人物だと察したのだろう。

何かを試されている気がした。

だから、彼女は言った。

「そんなに会いたいとおっしゃるのなら、連れて来させましょうか?」

歌仙はもちろん、控えている彼らにも緊張が走る。

じっと棟梁と目を合わせていた彼女はそれを逸らさなかった。

やがて、棟梁はぷっと吹き出し「ああ、すまん。いい」と断った。

「よろしいのですか?」

「ああ。どうせ、嬢ちゃんはまた城下で見かけることがあるんだろう?その時に声を掛けさせてもらうさ。嬢ちゃんに伝えておいてくれるか。“杖の具合が悪くなったら持って来りゃ直してやるよ”てな」

「修理ですか?新しく誂えるのではなく?」

「ぽっきり折れたら難しいだろうが、調整くらいなら面倒見てやるよ」

「わかりました。伝えておきます」

彼女が頷く。少し嬉しい情報だ。

「あと、また城が燃えたら声をかけてくれ。職人総動員で直してやるからよ」

そう言った棟梁に

「出来ればこのようなことは二度と起こしたくないのですが...増改築の予定ができたら依頼をするかもしれません。とてもいい仕事をしてもらったと聞いています」

と彼女は返した。

「おう」と棟梁は上機嫌に返した。

そうして歌仙が締めて彼女が退席をする。


棟梁と代表者が帰って行ったのを確認して皆が彼女に詰め寄った。

というか、着替えている彼女の部屋の外から声をかけてくる。

「さっき、連れて来いっていったらどうするつもりだったんだい?」

「というか、突然君が話し始めたから、正直焦ったよ」

概ね文句だ。

「棟梁さんの顔が、なんだかこちらに挑んでいたような感じだったので。わたしが日和ったら、皆さんが腰抜けと勘違いされるかと思いました」

彼女の答えに首を傾げる。

「どういうこと?」

着替えを手伝っている次郎が皆の代表で聞いた。

「だって、わたしはこの城の代表って事ですよね」

「そうだね、帯解くからちょっと腕を上げて」

次郎は頷きながら作業を続ける。

「わたしの評価は即ち皆さんの評価になりますよね」

「そうだね、そうなる」

次郎が相槌を打った。

「だからです」

「結論までの間が色々すっぽ抜けている感じがあるんだけど?」

「わたしは、わたし自身の評価が低いのは気になりません」

「気にしなさい」

隣の部屋からツッコミが入った。

「でも、わたしの評価が皆さんの評価に繋がるんだったら、低いのは嫌です。皆さん凄い人なんです」

彼女の言葉に反応する声がなかった。

「あれ、何か間違ってますか?」

傍にいた次郎に問う。

「間違ってないよ。ありがとうね」

そう言って次郎は彼女の頭を撫でる。

「我らも城の、主の名を落とさないように、改めて城下の者たちの接し方には気を付けるよ」

隣室から歌仙が言う。

「皆さんはきっと大丈夫ですよ」

「先日次郎が酒屋で暴れたそうです」

「兄貴!」

とんでもない情報が飛び込んできた。

「ちょっと、次郎さん」

「大丈夫。全然誰も怪我してないし」

「次郎さんが暴れたら嵐みたいなものじゃないんですか?聞いてますよ!!」

彼女にそう詰め寄られて次郎はたじろぐ。

「じ、じゃあ。もう一人で着替えられるね。着物はアタシが畳んでおくから」

そう言って彼女の着物を持って逃げるように部屋を出て行った。


その後、当然に懇々と説教をされた次郎は、当分の間、禁酒ならぬ“減酒”を約束させられることとなった。









桜風
16.4.3


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