嘯く 1





 つい先日、“へし切長谷部”という打刀がこの本丸にやってきた。

どうにも堅そうな性格で、たぶん気が合わないタイプだろうと審神者は思っていた。

「どんな刀?」

「俺に聞かれてもなぁ...」

近侍の鶴丸に聞いてみた。

経緯などを聴けばなんとなくわかるかなと思ったのだ。

「知り合いではなく?」

「同じ家に居た経歴があっても擦れ違いはあるぞ?主も同じ部署に所属したことがあっても一緒に仕事をしたことが無ければ分からんと前に言っていたじゃないか」

そう言われて「なるほど」と彼女は納得する。


この本丸の審神者、は国家公務員という身分にある。

今行われている政府の政策の担当部署に所属していたから審神者として配属された。

とはいえ、の場合は左遷だという噂が本人の耳に入っている。

上司があまりに決断力が無く、いつも責任逃れの方法ばかりを考えていたので、彼女がブチ切れて糾弾してしまった。

ついでに、バレバレのヅラも飛ばしてやった。

その数日後、はこの政策プロジェクトの核に突っ込まれてしまった。

誰もが望まない“審神者”などという役職を得て、得体の知れない付喪神と過ごす羽目に陥ったのは、自分の優秀さゆえだと彼女は思っている。

周囲からは生き方が下手だと言われてしまった。

(まあ、考えらんないくらいの特別手当が出るからいいんだけどね)

本来、審神者となれるのは特別な力を持っている者ではあるのだが、彼女は道具の力を借りてその力を得ている。

つまり、神を欺いていることとなる。

そのことをこの本丸にいる刀剣の付喪神に知られたらどうなるのだろうか。

(無事では済まないんだろうな...)

彼女は冷静に分析していた。

小さな体で顕現している短刀だって、刀だ。

見た目は子供でも、その本質は武器。人を殺めるそのために作られたものなのだ。

それに、彼らは神に名を連ねる者だから、人間如きが自分を欺いていたと知れば、その命を奪うだろう。


「失礼いたします」

廊下から声がかかった。

話題に上っていたへし切長谷部だ。

「はい」

が返事をする。

「第二部隊、恙なく遠征から戻りました」

「怪我は?」

「ございません」

「了解。ゆっくり休んで」

「はっ」

廊下の気配が去って行ったのを確認してはため息を吐く。

「そんなに駄目か」

「駄目じゃないけど、苦手かなぁ...」

「主に苦手なものがあるとはなぁ」

愉快そうに鶴丸が呟き、彼女は「うるさい」と言葉を返した。



◇◆



(遠ざけられている)

主に帰還の報告を済ませた長谷部は重いため息を吐いた。

自分がこの本丸にやってきたのは、遅い方だ。

打刀では最新参者。すべての刀剣合せてもここ最近と言える。

だからか、主から中々声を掛けてもらえない。

打刀であろうと、太刀以上に働ける自信がある。

それなのに、彼女は傍に太刀の鶴丸国永を置いている。

2人の間に厚い信頼が見えて、正直羨ましい。

そういえば、遠征の部隊長に任されたのは今回が最初だった。

それを思えば、少しは信頼をいただけているのだろうか。

そんなことを思いながら長谷部が廊下を歩き、自室に向かっていると

「よう、旦那」と声をかけられて視線を向けた。

薬研だ。

「遠征からの帰還か」

「ああ。大将は居たか?」

長谷部も報告に行ったのだろうと当たりを付けて薬研が問うと「おいでだった」と彼が頷く。

「そうか」

薬研は頷きそのまま足を進める。

第一部隊は一軍だ。時々、その中に新しく経験を積んでいる者も入ったりする。大抵、二軍の上位だ。

では、自分はと思うと、第二部隊の部隊長を任されたと言っても、任務は出陣ではなく遠征であり期待されているのかと考えるとさほど期待を背負っているとは思えない。

勿論、命じられた任務には真摯に立ち向かうが、正直、物足りなさがある。



◇◆



「大将」

廊下から声を掛けられては「いるよ」と返事をする。

障子を開けて薬研が入ってきた。

「第三部隊、無事に帰還したぜ」

「けが人は?」

「ない」

「そっか。お疲れさま。ゆっくり休んで」

彼女にそう言われて薬研は頷いた。

「ああ、そうだ。大将」

「ん?」

「さっき、長谷部の旦那とすれ違ったんだけどな」

「...うん」

は少し構えて頷く。

「何か悩み事があるみたいだったぜ。声を掛けてやったら喜ぶんじゃないのか?」

「...うん」

ぎこちなく頷く彼女に薬研は首を傾げた。

「ほら、な。主、あいつはああ見えてかなり繊細だと言っただろう」

愉快そうに鶴丸が言う。

「何だ?」

首を傾げた薬研が鶴丸に言葉を求めた。

「主は、長谷部が苦手らしい。きっと同族嫌悪なんだよ」

「そこは否定する。長谷部に失礼でしょ」

彼女は鶴丸を見てそう言った。

「まあ、まじめだと思うけど、冗談が通じないわけでもない。直臣でもない者に下賜されたのが気に入らないようだが、別に大将が信長ってわけじゃないし、大将に何か思うところはないと思うぜ」

苦笑して薬研が言う。

「まあ、薬研の進言はここに留めておくよ」

そう言っては自分の胸をトントンと叩いた。

「ああ、そうしてくれ」

苦笑して薬研はそう言い、「じゃあな」と審神者の部屋を出て行った。









桜風
15.6.6


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