嘯く 4





 長谷部が本丸の中を歩いていると、ふと祭壇のある部屋の前に差し掛かった。

中から光が漏れてくる。

そっと覗くと、鶴丸と彼女がいた。

「鶴丸サン、並はもういいと何度...」

「いや、あっはっは」

「まあ、失敗よかいいけど」

そう言って苦笑した彼女は鶴丸に向き直り両手をついた。

「本日も、お勤めありがとうございました」

そう言って深く頭を下げた。

儀式の一つなのかもしれない。

改まった彼女の様子は少しいつもと違って見えた。

「いや、待て。俺の本気はこんなもんじゃない。もう少しやらせてみないか?」

顔を上げた彼女に鶴丸が言うと

「いい。資源の無駄遣いはしたくない」

とつれなく返れさて肩を竦める。

「仕方ない、大人しく出陣してくる」

「気をつけて」

鶴丸が部屋から出ると、不自然に近くをウロウロしている人物がいた。

思わず苦笑いを浮かべる。

からかってみようかと思ったが、もう第一部隊は門に集まっているだろう。

流石に彼をからかっていたから遅くなったと言えば、総スカンだ。



◇◆



庭の手入れを終えたは本丸の中をウロウロと歩く。

先日、向こうの家に戻らずにそのままこちらに戻ってきてしまったので、買い物もすべて持ってきてしまった。

かといって、こちらでそれを着るのは憚れる。

どの道着るチャンスなんてない服なのだが、買ってしまうものは仕方ない。

(勿体ないかなぁ...)

しかし、ストレス解消にはそれがいちばんなのではあるのだが。

ふと、祭壇の部屋の前を通りかかると祭壇の前に座っている背中が見えた。

ピンと背筋を伸ばして、彼の生真面目さがその背中からもよくわかる。

扉の柱に背を預けてコンコンとノックをした。

振り返った彼は瞠目し、少し気まずげに顔を伏せる。

「私がいないと何にもならないんだよ」

が言う。

付喪神である彼らの力で刀装は作られる。

しかし、審神者の力が補助的に必要なため、彼女が必ず同席しなくてはならない。

「...作ってみたい?」

そう言いながらはいつも自分が座る場所に向かった。

「あ、いえ...」

俯いた長谷部には苦笑し、「1回ならいいよ」と言う。

「よろしいのですか」

「うん、いいよ。鶴丸が並しか作れなかったしね、今日は」

「ですが、資源の無駄遣いになると...」

長谷部が言う。

(なんで知ってるんだろう。ああ、鶴丸が出陣前にぼやいたな?)

鶴丸は知らないところで、濡れ衣を着せられた。

「いいよ。鶴丸は惰性で刀装づくりをしようとしてたから止めたの。適当に作って並を生産され続けたら、ね。
長谷部はここ最近遠征頑張ってくれてるし、大成功を収めてるから、お陰で獲得できる資源も増えてる事だし。還元祭だ」

はそう言って笑った。

「...では、1度だけお許しいただけますか」

「いいよ。作り方知ってる?」

彼女に言われて長谷部は頷く。

教えてもらったことがある。いつ彼女の一番近くに侍ることを許される日が来てもいいように。

「じゃあ、作り方は良いね。そうだな、資源の配分は...」

そう言って彼女は長谷部に配分を言い渡した。

「かしこまりました」

長谷部は資源を準備し、祭壇に祀る。

「では、よろしいでしょうか」

「いいよ」

彼女も定位置に座り、瞑目して祈りを捧げる。祈りをささげると言ってもイマイチピンと来ないので彼女はいつも「いい感じのを...!」と欲に塗れたことを考えている。

ふっと空気が一瞬変わる。刀装作成の時の空気だ。出来てもできなくても一瞬だけ空気が変わるのだ。

「主、お納めください」

声が聞こえてが長谷部に視線を向けた。

彼の手には、金色に輝く刀装がある。

「金盾!」

は思わず声を上げた。

「うまくいったようです」

長谷部は満足気に頷いた。

「初めてで金盾って凄いよ。それ、長谷部が使いな」

が言うと長谷部は驚いた表情を向ける。

「自分で作ったやつだし。いいよ、それは長谷部のだ。でも、それを大事にしすぎて自分が怪我するとかはナシだからね」

「...第一部隊に渡さなくてもよろしいので?」

「いいよ。何だかんだであの人たち、金装備だし」

肩を竦めてそう言ったは、長谷部に向かって両手をつき、「お力を貸していただき、ありがとうございました」と頭を下げる。

突然そんな態度を取られて長谷部は返答に困った。

「あ、主...」

「ここまでが儀式だから」

そう言っては笑う。

「さて」と言いながら立ち上がっては部屋を出て行った。



◇◆



長谷部は自分が手にしている金色の刀装を見つめる。

自分がこの本丸にやってきて、最初にもらった刀装も金色だった。

彼女は、初陣には必ず金色の装備を持たせると聞いた。

まだ人の体に慣れていないのに戦場に出たら怪我をしやすいかもしれないし、という配慮だという。

この本丸にまだ刀剣がさほど揃っていない頃は、資源的にもきつく、金色の刀装ができるまで作り続けることができなかったらしい。

よって、初期の頃にこの本丸に来た者たちは何度も重傷に陥り、彼女の手入れを受けて何とかこうして無事に過ごしているという。

大切にされているのがわかる。この本丸に在る仲間たち全てが愛されているのだ。

刀であった時はどうだっただろう。思い出そうとしても詳細な記憶はない。

大切にしようと思う。

誰かの作った刀装ではなく、彼女の力を借りて自分で作った刀装だ。簡単に失くすわけにはいかない。









桜風
15.6.27


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