嘯く 6





 出陣の部隊編成を考えているはふと、隣に座って共に考えている鶴丸に視線を向けた。

「ん?」

「あのさ、長谷部ってめきめき強くなってるって聞いたんだけど」

「ああ、らしいな。一緒に出たことがないから知らないが、誉取まくってるそうじゃないか。まあ、その辺は主の方が詳しいか」

誉の獲得状況は彼女の耳に必ず入る。褒美を渡すために必要な指標なのだ。

「うん、出陣するたびに何か長谷部の名前が挙がって来るんだよね...」

「何が言いたい?」

珍しく少し回りくどい気がする。

「第一部隊にはまだ早い?」

彼女の問いに鶴丸は少し考え、「半々だな」と答えた。

彼の機動力は有名で、その能力の高さで第一部隊の戦闘に付いて来れるかもしれない。

だが、陣形によっては機動力を生かせない場合もある。

相手の陣形に合わせてこちらが優勢を取っていくのが基本だが、それができない場合はどういう陣形を取るべきかということをその場で考える必要が出てくる。

「半々か...」

が呟く。

「面倒を見ろというなら、見てやってもいいぞ。その程度の実力はあるだろう」



◇◆



その日の出陣と遠征についてメンバーの発表があった。

長谷部はその発表を聞いて息が止まる。

(選ばれた...)

鍛錬を積み、実戦を重ねて実力をつけてきた。

やっと主に認められた。

長谷部は歓喜した。


敵の本陣まであと少しというところで、部隊長を務めている鶴丸が馬上から隊員を眺める。

装備が破壊されて何も持っていない者や軽傷・中傷の者がある。

「帰還するぞ」

一軍の者たちは素直に納得した。

長谷部のほかにもう一人、一軍に入っていない者が居たが彼も納得した。

だが、長谷部は否という。

「敵の本陣はもう目の前だぞ」

目をぎらつかせて彼は言う。

「駄目だ。装備が破壊されて丸腰の奴がいる。お前もだろう」

大切に装備していた、初めて作った金盾は先ほどの戦闘で破壊されてもうない。

「このままでは主に戦果を報告できない」

「報告するのは俺だ。仮に叱責を受けるのもな。戻るぞ」

鶴丸の言葉を聞かず、長谷部は敵の本陣に突っ込んでいった。

「くそっ」と鶴丸は毒づいた。

「放っておけばいいだろう。自業自得だ」

そう言った隊員に鶴丸は苦笑し

「主に、面倒を見てやると言った手前、放っておくことはできん。折れたあいつを持って帰った時の主の貌は容易に想像がつくしな」

と返し、「撤退の準備をしておけ。俺もアレを回収したらすぐに戻って来る」と馬を駆けた。



◇◆



「主!」

門の方から声がした。

は駆け出してそのまま手入れ部屋に向かう。

手入れ部屋の前には第一部隊がいた。誰もが血に汚れている。

「中は」

「鶴丸。重傷だ」

その言葉に頷き、「鶴丸終わったら次行くから」とは手入れ部屋に入って行った。

呼吸を整えて集中する。

鶴丸の手入れを進めていくと彼の瞼が明いた。

「あるじ」

「鶴丸、ごめん」

一旦手入れの手を止めては深く頭を下げた。

「あ?..ッ」

苦笑しながら鶴丸は首を傾げる。

少し体を動かしただけでもまだ激痛が走る。

「待って。札使うから」

そう言いながら彼女は手伝い札を使用した。札は、彼女の力を補うものだ。

傷はすべて癒えた。あとは、疲労が残っているだろう。

「鶴丸、ごめんね」

彼女が改めて謝罪した。

「俺も賛成した。面倒見てやると言った。その謝罪は受けられん」

の「ごめん」が何を指しているのか察した鶴丸がそう返した。

しかし、彼女は首を横に振る。

「最終的な決定権は私にあった。だから、責任を負うべきは私なのよ」

の言葉に鶴丸はため息を吐く。

「だが、俺はこうして主の、審神者の力で回復している。気にすることない」

「違う!それは...」

私の力じゃない、と言いかけて何とか飲む。

「...主は生き方が下手だな」

呆れたように呟く彼には泣きそうに笑った。

「それ、昔同僚にも言われた」

「あいつも反省はしている。あまり強く言ってやるなよ」

鶴丸の言葉には頷いて立ち上がる。



◇◆



「長谷部、入るよ」

声を掛けて彼女が入ってきた。

「さて、手入れしよう」

そう言った彼女に向かって長谷部が平伏した。

「申し訳ございません」

「今は先に手入れをさせて。まだ待ってる人がいるのだから」

彼女の言葉に長谷部は静かに従った。

大人しく手入れを受ける長谷部に彼女も言葉をかけることがなかった。

彼はそれが当然だと思っていた。

戦力として捨てられずには済むらしい。

いや、今手入れをしてもらえているのは、せっかく鶴丸が連れて帰ったのだからと鶴丸の気持ちを慮ってのことかもしれないと考え直す。

自分は彼女の期待を裏切り、大切な近侍を死の寸前まで追いやってしまった。


手入れが終わり、彼女は短く息を吐く。

長谷部は後ろめたさで彼女に視線を向けられずに叱責の言葉だけを待っていた。

「次は、気をつけようね」

彼女がそう言った。長谷部は反射的に彼女を見た。

困ったように笑っている。

「主...」

「ただ、当分第一部隊はナシだからね」

「何故、お叱りいただけないのですか」

「長谷部を第一部隊に入れたのは私の判断だからね」

「ですが...鶴丸から聞いておられないのですか?鶴丸の判断を無視して敵陣に突っ込んでいったのは俺の判断です」

「だから、次は気をつけようって言ったの。まあ、次に同じことをしたら怒るけどね」

そう言って彼女は立ち上がる。

今日は手入れを待っている人が多い。

「長谷部、少ししたら部屋を空けてね。体は重いかもしれないけど、自分の部屋で休んでよ。次が閊えてる」

そう言って彼女は部屋を出て行き、隣の部屋に移動した。









桜風
15.7.11


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