| (後ろめたいのはわかるけどさぁ...) 長谷部に避けられている。 後ろめたさならにもある。 自慢じゃないが、めちゃくちゃ後ろめたい。この本丸に来た日からずっとそれは持っている。 ネックレスを握って、握って... 「ない!」 彼女は青くなる。 「ど、どうかしました?」 偶然すぐそばを通っていた五虎退がビクッと震えて声を掛けてきた。 「あ。ごめん。あのさ、私の..いつも付けてるネックレス。えっと、首飾り、見なかった?」 膝を折って彼の目の高さに合わせて聞いてみる。 「いいえ」と首を振られて「そっか」と項垂れる。 「探しておきます」 「ありがとう」 「みんなにも声を掛けておきます」 「ごめんねー」 そう言って手を合わせる彼女に五虎退は首を横に振った。 彼のお供の小虎と共にその場からいなくなった。 (拙い...) あれが無ければ審神者としてのお勤めが一切できない。 一応、本日の日課が終わっているので、今日中に見つければ事なきを得る。 今朝あったという事は、今朝から今までの行動を遡ればあるはずだ。 夜になってもそれは見つからなかった。 (明日は仮病決め込む?) それ以外に方法が思いつかない。 だが、仮病を使ってもせいぜい3日くらいだ。 それ以上は、周囲が本気で心配しそうだ。 (いや、それ以上にこの期に及んで嘘を重ねてどうすんの...) 浅はかな自分の考えにため息を吐く。 皆が寝静まった後に、はこっそりと起き上がってネックレスを探し続けた。 その姿を影から眺めていた者がいた。 ◇◆ 「主、寝不足か?」 鶴丸が声を掛けてきた。 「ん?そう見える?」 目の下に隈を作っている彼女が問い返した。 「それで寝不足じゃないと言ったら俺は驚く。...寝不足じゃないと言う気はないか?」 鶴丸の言葉を聞いて彼女は半眼になり、「超寝不足」と返した。 「主、あまりに普通すぎるぞ。退屈で俺を殺す気か」 「鶴丸、いいこと教えてあげる。人間は退屈では死にません」 「俺は人間ではないぞ」 「体の構造上、“大体人間”でいいんじゃない?」 そう言った彼女に「俺は神だぞ」と鶴丸が珍しくその立場を主張した。 彼女は息をのむ。 青くなっている彼女をちらと見た鶴丸は少しだけ良心が痛んだ。 しかし、彼女はこうでもしなければ告白しないだろう。提案したのはあの一期だ。彼女が怒ったらネタばらしをしてさっさと逃げてしまおう。 袖の中でチャリッと金属の擦れる音が微かにする。 本日の日課のため、彼女は鍛刀をしなくてはならない。 その流れで刀装を作りに行くことになる。 もう時間切れだと彼女は腹を括った。逃げ切れる話ではない。 「鶴丸」 「何だ?」 「来て!」 そう言って彼女は鶴丸の腕を引いていく。 突然の彼女の行動に驚き、鶴丸は楽しむことにした。 スパンと多くの者たちが集まっている部屋の障子を開けた彼女に皆が注目する。 「主...?」 覗うように部屋の中にいた長谷部が声を掛けてくる。涙目で青くなっている彼女を避け続ける事は出来なかった。 「私はウソつきです!」 堂々と宣言した。 部屋の中は静寂に包まれる。 腕を引いて連れてこられた鶴丸が堪らず吹き出した。 「主君?」 反応に困って短刀が助けを求めるように、その言葉の意味を図ろうとする。 「私自身には、審神者としての力がないの。だから、私はみんなに嘘をついていました」 そう言って部屋の中の刀剣たちを見渡し、「ごめんなさい」と深く頭を下げる。 そんな彼女をぽかんを見る者、クツクツと笑う者様々な反応がある。 「あ、あの?」 彼女にとって、思いもよらない、不安になる反応がいくつかある。 「まあ、小さい短刀たちは知らなかっただろうが、俺たちは知ってたぞ」 ニヤッと笑って鶴丸が言う。 「へ?」 「主、自分で言ったんだぞ。「私は偽物デース」って」 「...いつ?」 不安げに見上げる彼女の肩にぽんと手を置く。 「酒は飲んでも飲まれるな」 「まさかーーーーー!!」 彼女は頭を抱えて蹲る。 「こ、この歳で。ここに来てお酒で失敗したというの...?!」 自問自答と相手への回答を求める両方を兼ね備えた問いに鶴丸達、その宴会に参加していた者たちはゆっくりと頷いた。 「何で、殺されていないの?」 恥ずかしさと情けなさで半泣きになっている彼女がそっと窺う。 「何と。主は殺されたかったのか?」 目を丸くして言った鶴丸は取り敢えず彼女のネックレスを返した。 「何で鶴丸が持ってるの」とそれを受け取りながら彼女は彼らの反応を待った。 「何か別の力を借りたとして、主は俺たちをここに呼んだ者だ。そこに間違いはない。 あとな、主は俺たちに対する敬意を忘れていなかった。偉そうにしようと思ったらいくらでもできるが、それをしなかっただろう。俺たちだって礼には礼で返す」 そう言った鶴丸を見上げて彼女は呆然と呟いた。 「鶴丸が、まともなことを言ってる」 「たまに無礼だがな」 彼女の呟きを受けて鶴丸は苦い表情をして彼女の頭をグリグリと乱暴に撫でまわす。 そして、鶴丸は長谷部を見た。 「主は、後ろめたさを抱えながら審神者としての任務を全うしてきている。それに応えるのが俺たちの役目だろう」 長谷部の眸が揺れた。 「主」 「ハイ」 ネックレスを掛けながら彼女は驚きつつ返事をした。 「どうか、再び俺にも機会をお与えください」 畏まって言われて彼女は困ったように鶴丸を見上げた。 「よし、いいぞ」 そう言ったのは鶴丸だった。 「ん?」と彼女は首を傾げる。 「俺もそろそろ近侍に飽きた。長谷部、どうだ?」 「「...は?」」 彼女と長谷部の声が重なった。 「え、そんなにいやだった?」「主が決める事だ!」 またも声が重なる。 「嫌ではないが、飽きた。それに、主は兵力の底上げを考えていると言っていたではないか。だったら、近侍もそういった連中に任せてもいいんじゃないのか? 別に、近侍を辞めたからと言って出陣拒否をするわけでもない。安心していいぞ」 満足気に笑う鶴丸を見て彼女はため息を吐いた。 このいい表情は、頑として譲らない時のものだ。 「長谷部」 「はっ」 「近侍やってみる?鶴丸曰く面倒くさいらしいけど」 彼女の言葉を受けて「面倒くさいぞー」と鶴丸が重ねて言う。 彼女がじろっと軽く睨む。 「お許しいただけるのですか?」 長谷部の問いに彼女は困ったように笑い、 「何か、鶴丸が言うには私と長谷部って似てるんだって」 と彼女が言う。 「恐れ多い」「長谷部に失礼だからって言ってるんだけどね」 2人の声が重なる。 「ま、似た者同士。まじめに取り組んでもらえればこの本丸も安泰。俺も楽ができる」 鶴丸がそう言ってぶんぶんと肩を回す。 「長谷部、どうする?」 彼女が問うと 「拝命いたします」 と彼は傅いた。 「じゃ、お願いね。早速の刀装は金で」 「はっ」 この城には審神者がいる。 自身を偽物という彼女は、しかしこの先も自身を審神者と嘯く。 だが、この城でそれを否定する者は誰もいなかった。 |
桜風
15.7.18
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