| こてんと寝転んでいた背中が寂しそうだった。 誰かに捨てられたのだろうか。 そんなことを思っていると名前を呼ばれた。 びっくりした。 でも、その声は初めて聴いたあの時のような固いものではなかった。 だから、もう少し近づいた。 嫌な感じがする人ではなかった。 優しそうな気がした。兄たちは彼女の事を良く思っていないらしい。兄たちだけではなく、この城にいる人たちの殆どがそうだ。 また来てもいいと言われた。だから、また覗きに行ってみようと思った。 ◆◇ 数日に一度は小夜が覗きに来るようになった。 これまでのようにこっそりとではなく、障子を開ける前に一言「入ってもいい?」と声を掛けてくる。 「いいよ」という返事を待って彼は障子を開ける。 1日に何度も飴をあげてはいけないだろうとこの部屋に来た時に1個だけあげることにしていた。 小夜が欲しがるので、個包装は丁寧に剥いで、イラストが切れないようにする。 「それ、見つかったらどうするの?」 が問うと、 「どうもしないけど」 と小夜は不思議そうに見上げてくる。 「大人..ああ、小夜も大人年齢だね。大きな刀の人たちに何か言われるよ、きっと」 「別にいいよ」 コロンと口の中で飴を転がしながら小夜が言う。 「...まあ、何かあったらあたしを悪者にしておきなね」 肩を竦めては雑誌に視線を落とした。 「それ、なに?」 「雑誌。えーと、瓦版の集合体?何か違う気がするな...」 覗き込んだ小夜は「それ、なに?」とページに掲載されているものを指差した。 「...ブラ」 そう言ってはページを捲る。 子供の教育によくないかもと思ってしまった。 「かわいかったね」 「そう?うん...」 反応に困る。 「あなたは、どうしてここに来たの?」 2人で雑誌を覗き込みながら小夜が何気なく問う。あの寂しげな背中が頭から離れないのだ。 途端、彼女は警戒の色を見せた。 「聞いて来いって言われた?情報を聞き出せって」 「ちがう」 小夜が言うが、彼女は警戒を解いていない。 「今日はもう出てって」 「本当に僕、そのために来てるんじゃない」 「わかった。けど、今はもうだめだから出てって」 固い声でそう言われた。 「うん」と頷いた小夜は立ち上がり、廊下に向かう。 「僕は、あなたの背中が寂しそうだったから聞いただけ」 そう言って小夜は廊下に出て行った。 (危なかった...) 片手で顔を覆いながらは心の中で呟く。 そうだ。あの子も自分を良く思っていない刀剣男士の一人だ。 子供のような容姿をしていたからすっかり忘れていた。警戒を怠ってはいけない。 ここでは、自分の身は自分でしか守れないのだ。 武力では勝てない。勝てるはずがない。 今の立場を盾にやっと干渉されない距離を保てているのだ。 顔をあげて目に入ったのは、先ほど小夜にあげた包装だった。忘れて出て行ったらしい。 悲しそうな目をして出て行った。 (だから、駄目だって...) は頭を振って脳裏に焼き付いている彼の背中を追い払った。 ◆◇ 「小夜、どうかしましたか」 肩を落として廊下をぽてぽて歩いている弟を見つけて宗三が声を掛ける。 「宗三兄様」 「元気がありませんね」 兄は畑当番をしていたようだ。 主を亡くしてからというもの、出陣はしないが、生活のために内番はしている。必要最低限の資源の配給はあるが、お上に頼るというのも気持ちのいい話ではないのだ。 「あの人は、どうしてこの城に来たのかな」 「あの人?ああ、あの審神者を名乗っている小娘ですか?“ばいと”などと言っていたので、金じゃないんですか?あの小娘の事は気にする必要はありませんよ。いずれいなくなる者です」 「うん、そうだね」 そう返した弟の様子が少しおかしい。 「小夜。まさかとは思いますが、あの小娘と言葉を交わしているのではありませんか?駄目ですよ。人間如きと言葉を交わすなど...」 「してないよ」 小夜の言葉に宗三はほっと息を吐く。 その様子を見て小夜はチリリと胸が痛んだ。兄に嘘をついた。彼女の事を否定してしまった。 (ごめんなさい) どちらに対するものなのかわからないまま、小夜は胸の中で謝罪した。 |
桜風
15.10.11
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