おひさま 4





 の夕飯は遅い。

この城に在る者たちが食事を終え、寝静まった頃に厨に向かう。

お互いの不干渉を口にした手前、彼らが起床している時間に城内をうろつくのは拙いと思っているからだ。

厨を使うことについて、彼らは仕方ないと認めてくれた。

そのため、この厨を取り仕切っているらしい燭台切光忠という太刀が一通りの使い方を教えてくれた。

特に口を酸っぱくして言われたのが火の始末だった。確かに調理をするときは竈で、コンロがない。火の不始末でこの城が燃えてしまったらその火で火炙りにされてしまう気もする。


食器も使用してもいいと言われているが、なるべく使用しないようにしている。

よって、は大抵湯を沸かすだけの調理に留めている。

それを調理と呼ぶかどうかは別の話で、取り敢えず、体に良くない食事と呼ばれるレトルト食品が主食となっている。

その日はパスタにしてみた。乾麺だから保存が効くだろうしと持ってきたもので、ソースはレトルトだ。

麺をゆでる湯をそのままソースを温める湯として使用する。

皿を1枚取り出してパスタとソースを盛り、傍の居間に置いてあるちゃぶ台の上に置いた。

「あ、お水」

水と先ほど麺をゆでる際に使用した箸を取って振り返ると暗闇に人がいた。

「わあ」と声を漏らした彼女に、その人物は面倒くさそうに視線を向けた。

「宗三左文字?」

覗うようにが声を出す。月明かりがあるとはいえ、正直見づらいし、認識できるほど顔を合わせていない。

が知っているのはタブレットに表示される宗三左文字の姿かたちだけなのだ。

「ええ」

彼は頷く。

「どうしたの、こんな時間に」

「何やら物音が聞こえたもので。不審者なら、斬らなくてはならないかなと思って足を運んでみました」

「それで、斬らなきゃいけない不審者だった?」

肩を竦めてが問う。一応距離は置いてみた。

「まあ、この城に置いてもいいという話になっている娘でしたので、斬るのはまた今度にします」

不穏なことを言われた。

警戒していると「これは何ですか?」と宗三が問う。先ほどがちゃぶ台に置いたパスタをじっと見ていた。

「ああ、パスタ。あたしの夕飯」

「ぱすた?これ、食事なのですか?」

「食べてみる?美味しくなくても文句言わないでね」

そう言いながら取り皿として小さな皿を1枚と、「宗三の箸って決まってるの?」と箸を漁る。

「いいえ、決まっていません。あなたの時代には決まっているのですか?」

「うん、家族でも自分の箸ってあるよ。じゃあ、これね」

宗三の問いに応えながらが適当に箸を一膳握りしめてやってきた。

小皿に宗三のをとりわけ、「これだけは食べきってね。捨てるの勿体ないし」と言って箸と共に渡す。

一度立ち上がって、「湯呑も宗三専用のってないの?」と聞く。

「ええ、ありません」

宗三の返事に頷いて彼女は厨に戻って行った。

「はい、どうぞ」

戻ってきて湯呑を渡す。水が入っていた。

「ありがとう」と宗三が礼を言うと彼女はきょとんとした。

「何ですか?」

「宗三って一段上にいるんだと思ってたから」

「どういう意味ですか?」

「うーん、まずお礼とか言われないと思った」

「そうですか」

ため息交じりに宗三が言う。呆れたようだ。

「じゃあ、いただきます」とが手を合わせてパスタを口に運ぶ。

彼女が咀嚼して嚥下したのを確認して宗三も口をつけた。

(ああ、毒見か)

手を付けなかった理由を考えては納得した。

「どう?」

一口食べた宗三にが問う。

「初めて口にする味ですね。あまり美味しいとは思いませんが...」

「だろうね。まあ、前の審神者さんはご高齢だったって聞いてるし、パスタよりもお蕎麦派だっただろうしね」

「そうですね、あの人は蕎麦を好んでいましたね。薬味をたっぷりと入れて美味しそうに啜って」

目を細めて宗三が呟く。

そしてを見た。自分に視線が向くと思っていなかった彼女は一瞬怯む。

「あなたは、なぜここに来たのですか?」

「前に言わなかったっけ?バイトだって」

「バイトとはなんですか?」

「期間を区切って賃金をもらうこと。短期間の仕事って感じかな?昔だったら、日雇いとかそういう表現かな?あたしの場合は、日雇いというか、次が見つかるまでって言う期限未定な仕事だけど」

「仕事」と宗三が呟く。

「まあ、何もしてないのに仕事かと問われたら、答えづらいけど。ここに来る時の政府の出した条件が、“この城で生活すること”で、それを全うしているから仕事という事になるのかな」

「最近、あなたの部屋に小夜が行ってませんか?」

「本人に聞いたら?」

是否の正解がわからないのではそう返した。

肯定すれば小夜が叱られるかもしれない。違うと言えば、嘘になる。

「...そうですか」

(意外と愚かではないのですね)

宗三はの想いを察して適当な返事に留めた。少なくとも、小夜の事を想っているようだと感じた。


「ごちそうさまでした」とが手を合わせる。

「ごちそうさまでした」と宗三も手を合わせた。少し意外に思って彼を見ると「口に入れた以上、そうするべきでしょう」と静かに返され、「なるほど」とは頷く。

「あなたはいつもこのような食事を?」

「うん。だって、保存が効くものって意外とないし。できれば洗い物を少なくしたいし」

ちゃぶ台の上を片付けながらが言うと「そうですか」と宗三が相槌を打つ。

「僕が洗いましょうか」

「いいよ。あ、ちゃぶ台の上を拭いておいて。あとはやっておくし」

の言葉に頷き、側に置いてあった布でちゃぶ台の上を拭く。

「拭きましたよ」と布を持ってきた宗三に「ありがとう」とは返した。

「では、僕は先に休みます」と声を掛けて部屋に向かって行く。


部屋に戻りながら宗三はふと思う。

悪意を持っている娘ではない。小夜が懐いているようだったから、娘を見ておこうと思った。

もし、小夜に害のある娘なら相応の事をしておこうと思った。要は、あの娘がこの城に居れば事足りるのだ。

だから、手足が無くとも、声が出なくとも、あの娘を置いていればこの城は保たれるのだ。

(もう少し様子見ですね)

おそらくこの事については他の者も何人か気づいているだろうが、そこまで手を下していないのなら自分が率先してする必要がない。

少なくとも、小夜に害がないのなら。









桜風
15.10.18


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