おひさま 10





 これまで昼まで寝ていたの日常が少しずつ変わってきている。

小夜が部屋にやってきて、彼に合わせていたら、朝早いし、夜も早い。

正直体がついて行っていない感じがある。

「主」

寝起きで頭の回らない状況で布団の上に座っていると小夜が声を掛けてきた。

「んー?」

緩慢な動きで振り返ると小夜は殆ど支度を済ませている。

後は髪を結うだけだ。

「結んで」

「うん、いいよ」

が編んだ髪紐を差し出してきた小夜には頷く。

「小夜は、この紐気に入った?」

「うん。あのね、宗三兄様も使ってるんだ」

「宗三が?」

は苦笑した。

「宗三って髪を結ぶの?」

「いつも結んでるよ」

「...ああ、ハーフアップか。しかもやたらと三つ編みしてるよね」

宗三の髪型を思い出しながらが呟く。

「ハーフアップって?」

「こんな感じ」

小夜の髪を結びなおして鏡を渡した。

「あ、これ?」

「うん、宗三とお揃い。今日はこれにする?」

が問うと少し悩み、「いつものが良い」と小夜が言う。

「この髪だと少し動きにくい」

「まあ、邪魔に思うかもしれないね」

も納得して小夜にいつものポニーテールをした。

「はい、出来上がり」

「ありがとう」と礼を言った小夜は立ち上がり、「水汲んでくるね」と部屋を出て行った。

小夜が部屋にいない間に着替えを済ませる。おそらく、彼なりの気遣いなのだろう。

タブレットを起動させて眺めていると小夜が戻ってきた。

「ありがとう」と声を掛けると彼は嬉しそうに「うん」と頷く。

がタブレットを見ていると小夜は文机との間に座る。つまり、彼女の膝の上に乗る。

「小夜、見づらい」

「僕、ここが落ち着く」

そんなことを言うのだ。短刀だから懐に近いところにいるのが落ち着くのかなとは首を傾げる。

「僕、目を瞑ってるから大丈夫だよ」

「いいよ、見ても」

の言葉に小夜は驚いて振り返った。

「いいの?」

「いいよ。小夜なら大丈夫でしょう」

の言葉を噛みしめるように小夜は俯く。そして、改めてが見ているタブレットを見た。

目がちかちかして苦手だが、が見てもいいと許してくれたことが嬉しい。

「これ、何?」

「新しく敵さんが潜伏というか侵攻してきている時代だって」

「夜?」

「夜戦のみって書いてあるね。だから、大きな刀連れて行っても役に立たないよって。
...そうなの?」

刀が大きい方が強いと思っていたは小夜の顔を覗きこみながら問う。

「うん。太刀や大太刀は夜目が利かないから夜戦に向いていないんだ。夜戦は僕たち短刀の戦場だよ」

そして小夜はを見た。

「ここに行けばいいの?」

「ううん、出陣はナシ」

が首を横に振った。

「どうして?」

「何度も言ってるけど、あたしは繋ぎのためにここにいるだけだから、本来審神者がやらなくてはならないことをしなくてはいけない立場にはないの。居ても居なくてもいい存在なの。どうせ、中途解雇になるんだし」

が少し乱暴に投げた言葉を耳にして小夜は俯く。

「僕は、主に居てほしいよ。居ても居なくてもいいっていうなら、居てくれた方がいいよ」

小夜の素直な言葉が嬉しい反面、はその言葉を重く感じていた。

小夜が自分を主と仰いでくれることについては、受け入れた。だが、未だに彼の命まで責任を持てない。そこまでの覚悟がないのだ。

だから、出陣はさせられないし、はこれまでどおりこの部屋で大人しく過ごしている。

「ねえ、主がちゃんとした審神者だったらずっとこの城に居てくれるの?」

「ちゃんとした審神者の定義がわからないけど...あたしが、出陣や遠征の指揮を取れてたら、まあ、もう少し様子を見るとかあるだろうけど。でも、ごめん小夜。あたしは小夜たちの命を背負う覚悟はないから、無理だよ」

「...わかった」

小夜が頷く。何かを覚悟したような思いつめたような声音で。

は心配になって小夜の顔を覗きこんだが、良く見えない。

「小夜?」

「僕、ちょっと用事」

の膝の上から降りて小夜は立ち上がる。

「うん」

「僕、頑張るから」

「小夜?」

少し様子がおかしい小夜の背中を見送ったの胸に一抹の不安がよぎった。



◆◇



「いってきます」

小さな声でそう言った。

ここ最近彼女は「生活のリズムが崩れてしまって、眠りが浅い」などと言っていた。

だから、薬研に頼んで睡眠薬を作ってもらい、それを寝る前の茶に混ぜて渡した。

彼女は何の疑いもなくそれを飲み、間もなく「凄く眠いから先に寝るね」と床に着いた。

これで彼女は朝まで起きない。

自分が戻ってきたころに目が覚めて、そしてきっと喜んでくれる。

小夜はそっと部屋を抜け出した。









桜風
15.11.29


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