おひさま 13





 目を覚ますと視界に入ったのは天井で、体が少し重く感じる。

「目が覚めましたか」

優しい声音が耳に届いた。

「兄様」

視線を声の方に向けると兄2人が揃っていた。

「僕は...」

呟いた小夜は慌てて体を起こそうとする。

「まだ寝ていなさい」

「僕、どうやって」

「皆で戻って来ましたよ。敵の本陣を落としたと聞いています」

「僕、折れなかったんだ」

小夜がポツリと呟く。

「...あなたが折れていたらあの娘の命はありませんでしたよ」

兄の言葉に小夜は気づく。

「僕、直ってる」

「あの娘があなたを直しました」

「主...」

呟き、小夜は何とか体と起こしてふらつきながら彼女の部屋を目指した。

心配そうに兄たちが後から追い掛けてくる。


彼女の部屋の前に立ち、呼吸を整えていると「お前の脳みそはどこに消えた」という長谷部の冷やかな声音が廊下に届いた。

「ううう...」という彼女のうめき声が聞こえて「主!」と小夜が慌てて障子を開ける。

彼女は文机に着いており、その隣に座った長谷部が険しい表情をしていた。

「小夜!」

「おー、体はもういいのか?」

愉快そうに彼女と長谷部の姿を眺めていた鶴丸が軽く手を挙げて声を掛けてきた。

「小夜!」と彼女は立ち上がり、小夜の元に駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。

「あるじ」

彼女はパッと小夜から離れた。

「小夜、お座り!」

「私の弟を犬のように扱うのはやめてください」

すかさず江雪からの抗議の声が上がるが、小夜は素直にその場に正座した。

彼女もその正面に正座する。

「小夜、約束して。もう勝手に出陣しないこと。勿論、あたしが頼りなかったから決めちゃったんだろうけど。でもね、小夜。あたしを主と言ってくれるなら、あたしの意見を求めて。あたしは戦略的なことは全然わかんない。あたしは自分が頼りにならないって知ってる。
でもね、あたしには小夜がいる。長谷部と鶴丸も手伝ってくれるって言った。小夜をこちらに招いた審神者のように立派じゃないけど。でも、あたしは小夜の主でありたい」

小夜はぽかんと彼女を見上げた。

「いいの?帰りたいって思わないの?」

「あっちにも大した居場所があるわけじゃないし」

肩を竦めていう彼女に「僕、約束する。あなたを、主を守る」と言った。

「小夜が手伝うというなら、僕も手伝いましょう」

「私も監視をしなくてはなりませんし」

「おーおー、素直じゃないね」

宗三と江雪の言葉を鶴丸がからかう。

2人が同時に鶴丸を睨み、彼は肩を竦めて視線を逸らした。

「おい、もういいか。続きをするぞ」

「ハイ」

彼女は首を竦めて返事をし、「小夜、あたし頑張るからね」と言って文机に着いた。

小夜もその隣に座る。

そこにはこれまでの戦場の一覧があった。

どうやら編成について指南を受けているようだ。

「だから、なぜ必ず夜戦がある戦場に、太刀と大太刀だけの編成をするんだ」

「力技で押してどうにかなるかなって」

「なるか!」

叱られて首を竦める彼女の姿に、小夜は笑った。



◆◇



「おーい、そろそろ休憩にしようよ」

畑仕事をしていると声を掛けられた。

「はーい」とと小夜が返事をする。

あれから間もなく政府から通達があった。を正式な審神者にするというのだ。

元々審神者の力を持っている者は少なく、繋ぎのためだけに置くつもりはなかったらしい。そんな余裕はないとか。

しかし、双方ともに猜疑心を抱えて上手くいくとは思えなかったので、取り敢えずお試しという事にしておいてお互いが信頼関係を築き、頃合いを見計らって「実は正式な審神者でしたー」と種明かしをする手筈だったという。

手筈どおりになったことについては、この城の者たち、も含めてスッキリしなかった。

しかし、がこの城に残ることが正式に決まったことについて、小夜は喜んだ。

当初の存在を疎んでいた者たちも、置いておいても害はないし、一応頑張ってるみたいだしと見守る体勢に入っている。あの三日月も鶴丸の説得に応じたのか、今までのような冷たい視線は向けて来なくなった。

を主と呼ぶ者は小夜のみであったが、彼女自身、それが良いと思っていた。

この城の審神者である以上皆の命に責任を持つが、主と呼ばれるほどのものではないと自覚している。今でも兵法や戦術について周りに教えてもらい、時々叱られている。

「ほら、お団子だよ」

と小夜に茶を淹れながら燭台切が言った。

「美味しそう!」

「ほんとだね」

「審神者ちゃんは草団子が好きだもんね」

「うん。ありがとう、光忠」

満面の笑みで言うが面白くなくて小夜は自分の団子を彼女の前に置いた。

「僕のもあげる」

「いらない」

すかさず返されて小夜は肩を落としたが、彼女は笑った。

「小夜にはたくさんもらってるから」

「僕?何もあげてないよ。下駄だけ」

「うん、下駄をもらった。ありがとうね。でも、それだけじゃないの。
前に話したでしょ。あたしには居場所がないって。小夜がいなかったら、ここもあたしの居場所にならなかったもん。一番欲しいものくれたのは、小夜だよ」

「それが、ほしいもの?」

「うん、ほしかったもの。小夜はさ、おひさまみたいだね」

「おひさま?」

「うん。おひさまでぽかぽかと暖かい居場所をくれた」

「僕、そんなことを言われたの初めて」

赤くなってうつむく小夜には笑う。

「そっか」

「うん」

「おーい、あんたの時代から何かお届け物が来たぜ」

そう言いながら厚がやってきた。

大きな紙袋で、それを開けるとセーターが数枚とくしゃくしゃの毛糸の塊がある。何かを編んだのだろうが、何を編まれたのかわからない。

ひらりと落ちた紙に「温かくして過ごしなさい」と一言だけあった。

その文字は見覚えがあり、毛糸の塊を手に取ってみると、筒のようになっている。

「何だこれ」

厚が首を傾げる。

「腹巻」

「そうなの?」

「たぶん...それ以外に使い道なさそうだし」

「お母さんから?」

小夜に問われては頷く。少しだけくすぐったそうに。

「たぶんね」

「主は上手なのに」

不思議そうに呟く小夜に「あの人、ぶきっちょなの」とは笑う。

の笑顔に小夜は瞠目し、そしてつられて笑った。









桜風
15.12.20


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