元旦





 除夜の鐘をきくことなく正月を迎えた。

いつもどおりに起きていつもどおりに仕度をする。

しかし、いつもどおりの一日がいつもと違う一日になる。

お正月とはそういうものだ。



障子をあけると既に多くの者たちが起きているようで、人の気配がたくさんした。

初日の出を拝みたい気持ちもあったが、今日は皆で食事をする。

審神者として初めて迎える正月だ。

「おはよう、主」

少し下の方から声がして視線を落とすと小夜が立っていた。

「おはよ」

返しては我に返る。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

深々と頭を下げる。

「あ、」と呟いた小夜も同じ言葉を返した。

「あたしお正月って苦手なんだよね」

「どうして? めでたいのに?」

「日常が非日常になるから。いつもと同じことをしているのに何か特別感が出ちゃって、落ち着かない」

「でも、ひとつ年を取るからめでたいんじゃないの?」

小夜に指摘されては首を傾げた。

「あ、そうか。昔はお正月にみんな揃ってひとつ年を取ってたんだっけ」

「今は違うの?」

前の主はそんなことを言わなかった。

「うん、誕生日に年を取ってることになってる」

「誕生日?」

「生まれた日」

「じゃあ、主は今日年を取らないの?」

「うーん、書類上そういうことになるかな? まあ、新しい年を迎えることができたから「おめでとう」なわけだし」

「うん。あ、そろそろ朝食の支度が終わるって」

「今日は早くない?」

眉をあげてが返す。

「うん、正月だから」

「初日の出拝めないかもしれないね」

「間に合うと思う。毎年そうだから」

「それなら安心」


少し足早に大広間に向かった。

正式な審神者になってからというもの、食事は皆と共に行っている。

朝食の席でその日の予定を報告されるので、一度に済ませた方が楽だと言われてそうなった。

「わっ、ごちそうだ」

障子をあけて大広間に入ると、いつもよりも張り切った朝食がある。

先日餅は丸めるのを手伝ったため、それがあるのは知っているが、それ以外にもいろいろとある。

「おはよう、審神者ちゃん」

声を掛けられ、新年のあいさつを返す。

「それは後でまとめてみんなにね」

そういうものか、と頷いて「おはよう」の挨拶を改めて返した。


皆が食事の席に着くと「審神者から挨拶を」と長谷部に促されて蒼くなる。

そんな原稿作ってないよ、どうしようなどと思っていると「審神者ちゃん」と呼ばれて視線を向けると燭台切がウィンクをした。

あ、ここかと納得して新年のあいさつをすると皆が返してくる。

迫力があってちょっと怖い。

長谷部が今日の予定を口にして、皆で食事を始める。

雑煮が二種類あるのはなぜだろうなどと思いながらすましの方に手を伸ばすと「あ!」と声がして、順番違うのかなと思って白みその方に手を伸ばすと咳払いが聞こえた。

何が正解かわからない。

「主、好きな方を食べていいよ」

傍にいる小夜が言う。

「でも、作法とかあるんじゃないの?」

「ううん、気にしなくていいよ」

作法とかそういう躾を受けていないため、時々目の前で盛大にため息をつかれることがある。今さらどんなに頑張っても品格のある立派な人にはなれないけど、間違いがあるなら教えてもらいたい。

だが、小夜が大丈夫というのだから、今回はそういうことではないのだろうと、すましの方に手を伸ばした。

「あ!」とやはり声が聞こえたが、今回は気にしないことにした。



「主は実家には帰らないの?」

食事が終わって部屋に戻りながら小夜が問う。

「前の審神者さんは帰ってたの?」

「ううん。あの人はもう家族がいないからって言ってたけど、主はお母さんが居るでしょう?」

小夜に指摘されて少し考える。

今の距離だから丁度いいような気もするが、実家に顔を出さないのも不義理のような感覚もある。

「お正月明けて少ししたら会議があるから、その時にちょっと顔出してみるよ」

「あー、いたいた。審神者チャン。こっちおいで」

次郎太刀に声を掛けれて彼女と小夜は足を向けた。

「何?」

「初日の出」

「え。どこ?」

「これからだよー。屋根の上からだと見やすいからね」

そう言って次郎太刀がをひょいと持ち上げた。

「え?!」と困惑していると先に屋根に上っていた獅子王が受け取る。

「主?!」

小夜が慌てて屋根に上ってきた。彼は跳ねただけでここまで届くのだ。

「小夜、凄い」

「大丈夫? 怖くなかった?」

「え。あ……びっくりしちゃった」

笑って返すにほっと溜息を吐く。

「あー、ごめんな。びっくりしたか。そうだよなー」

人懐っこい笑みを浮かべて獅子王が謝罪する。

「だから言ったでしょう。おやめなさいと」

屋根の下からは太郎太刀の声だ。

「いいじゃないか、兄貴。きっと審神者チャンも喜ぶ」

「あ、うん。ありがとう」

屋根の上から覗き込んでが礼を口にすると「どうしたしまして」と次郎太刀がウィンクを返した。


「お、日の出だ」

遠くの山を眺めながら誰かが言う。

は立ち上がって手を合わせ、その隣では、はらはらと彼女を見守る小夜の姿がある。

「きれいな初日の出も拝めたし、今年はいい年になりそう」

にこりと微笑んでいうに「うん、そうだね」と同意して「降りよう?」と小夜が促す。

小夜が心配している姿に彼女は笑顔を見せて、「どうやって降りようか」と返した。

「何なら俺が下で受け止めようか」という獅子王の提案にかぶせるように「掴まって」と小夜が言い、を横抱きにして屋根から飛び降りた。

「振られたな」

からかうような口調で言うのは鶴丸で、獅子王は「うるせぇ」と拗ねたように返す。

下の方からは「小夜凄いよ」と弾んだ声が聞こえた。

「今年はいい年になるといいな」

新しい年の初めての朝日を浴びながら鶴丸は目を細めた。









桜風
18.1.8


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