願わくば 5





 資源の準備をして、は後ろを振り返る。

最低限の資源でまず挑戦しようと歌仙と約束した。

だが、これまで使用していた量に比べて随分と少ない。不安しかない。

「もうちょっと……」

手を伸ばしたところで歌仙のため息が聞こえた。

思わず振り返るが、誰の姿もなく、ただしそれは約束を破った際に確実に耳にするそれだと納得した。

3日くらい試して誰も来なかったらもう少し増やすことを赦してくれるかもしれないと思い、ひとまずはこれで試すことにした。

すると、成功したらしく刀の姿が輝き始める。

初めて歌仙に会った時とは少し異なるのは刀種が違うからだろうかと思いながら眩しさに目を細めながらその様子を見守っていると人の姿が浮かび上がってくる。

小さな男の子だった。

笠を背負っている男の子。

彼は小夜左文字と名乗った。

「あなたは、誰に復讐したいの?」

問われては首を傾げる。

「復習?いやぁ、苦手だわ」

突っ込み役不在のため、すれ違ったままの会話がそこで止まる。

「小夜左文字さん、だね。あたしはこの城の主で審神者。名前は、秘密。よろしくね」

右手を前に出した状態で拳を握り、親指を立ててが言うと「わかった」と彼は静かに頷いた。

「君は短刀?」

「そうだよ」

「そうか、短刀か……」

「僕じゃ不満?」

「ううん、不満じゃない。ようこそだよ」

あと5人はこの資源の量で挑戦ということが確定しただけだ。

「あ。もうね、この城に刀剣男士が居るんだよ、紹介するからおいで」

「刀剣男士?」

「刀剣の神様の事をあたしたち人間はそう呼んでるの」

「……そう」

「そうだよ。ほら、行こう」

小夜は少し構えた。主と名乗ったおなごが手を差し出しているのだ。

「別に、ひとりでも」

「でも、歩くの大変じゃない?大丈夫、歌仙さんにも肩を貸したんだし」

(歌仙?)

知ってる刀剣の名と一致して小夜は興味を覚えた。


小夜の手を引きながらは本丸の説明をする。

自分の知っている範囲を丁寧に。

「部屋はどうしようかなぁ」

「別に、どこでもいいよ」

「広いから今ならより取り見取りだよ」

祭壇のある部屋の前に歌仙が立っていた。

鍛刀部屋と少し離れているので、主の様子を見に行くかどうか少し考えていたようだ。鍛刀部屋は離れの小屋なのだ。

「あ、歌仙さん」

「歌仙……兼定」

小夜がポツリとつぶやく。

「小夜左文字かい?」

「え、お知り合いなの?」

駆け出しそうになっては思いとどまる。何故、小夜と手を繋いでいるのか、その理由を思い出したのだ。

「小夜左文字さん」

「小夜でいい。何?」

「ちょっとごめんね」

そう言っては「よっこいしょ」と小夜を抱え上げて走り出す。

「下ろして」

小夜は顔が熱くなるのを感じた。なんだこれ。

「もうちょっと」

の明るい声が耳に届くが、上下運動が気持ち悪い。

歌仙の立っている廊下の目の前に止まり、小夜を下ろした。

「あれ?小夜さん?」

「小夜で、いい」

俯いている小夜は蒼い顔をしている。

「さっそく病気?!」

「主が乱暴に扱ったからだよ。全く、水を汲んでこよう」

「え、あたし行ってきますよ。ちょっと待っててね」

慌ただしく駆けていくの背中を横目で見送り、小夜はちらと歌仙を見上げた。

「久しぶり」

「そうだね、久しぶりという表現は悪くないかな。まさか、君に会えるなんてね」

「あの人が主?」

「主、と僕は認めた。認めればそう呼べばいいと僕は思っているよ。主自身、あまり気にしない性質のようだし」

「……そんな感じはする」

「少しガサツ、大らかなところがあるけど、性根が素直ないい子だよ」

ガサツを言い直してみたものの、やはり、ガサツの部類なんだろうなと歌仙はひっそり思った。

「うん、たぶんそうなんだと思う」

少し気持ちが悪いのが収まった小夜は頷いた。

「小夜さん、お水!」

駆けてきたの姿を見て歌仙はぎょっとした。

「桶!主、それは桶だよ!」

「……顔を洗うんじゃないの?」

歌仙の言葉に反応して急停止したため、桶の水が零れてばしゃんと地面にたたきつけられた。

「僕は、水を飲めばすっきりするんじゃないかと思ったんだけどね」

「ああ、なるほど」

頷いて彼女は少し水量が減った桶を小夜に渡して「酌んでくるね」とまた駆けていく。

くすりと笑った気配がした。

「小夜?」

「良い子だね」

「素直でいい子なのだけど、少し落ち着きがないんだ」

呆れたように、しかしどこか愉快そうに歌仙が呟いた。

小夜が渡された桶を地面に置き、歌仙はそれを見守る。

ぱしゃぱしゃと顔を洗い始める小夜の姿に歌仙は苦笑を漏らした。

「小夜、手ぬぐいだ。高いところから悪いね」

差し出された手ぬぐいを受け取り、小夜は顔を拭いて歌仙を見上げた。

「すっきりしたよ」

「それはよかった」

「小夜さん、お水!」

湯呑を手にが戻ってきた。

「ありがとう」

受け取った小夜は水を一気に煽った。

「良い飲みっぷり」

呟いたに視線を向けた。

「それで。僕は君の下で何をすればいいの、主」

「落ち着いてから説明するよ。まずは小夜さんのお部屋決めよ」

そう言っては歌仙を見上げた。

「心得たよ。小夜、今ならより取り見取りだ。好きな部屋を選んでおいで」

「……うん」

それでいいのかな、という疑問は無きにしも非ずだが、この城の、2人の雰囲気は何となく悪くない気もした。

「あっちに階段がありますよ」と手を引かれた小夜はそれを振りほどこうとしなかった。









桜風
16.3.21


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