願わくば 6





 城に在る刀剣男士の数が両手両足では足りなくなってきた。

記憶力に自信がなかっただが、不思議と、初めて目にして名を聞いてから彼らの名をうっかりでも忘れることがなかった。

人が増え、出陣のほかに遠征任務もこなせるようになった。

遠征では資源の調達ができるようになる。そのため、少しずつ大きな刀身の者たちを呼ぶことができた。

歌仙のいない間にちょっと冒険したら薙刀が来てしまい、正直慌てたのもいい思い出だ。


「ただいまー」

主に声を掛けた加州は部屋の中に気配を感じなかったため「またか」と苦笑を零して城内の道場に足を向けた。

「やー!」と女の子の声が聞こえてきた。

加州は道場の入り口から中を覗き込みながら「止めないんだ?」と声を掛けた。

「止めても聞かないからね、時間制にしてる。お帰り。お疲れ様」

道場の入り口に佇んでを見守っている歌仙は振り返って労いの言葉を寄越した。

「ただいま。時間制って?」

「待ってたよ」

ニコリと笑った歌仙が「主、加州が戻ってきたよ」と声を掛けてきた。

どうやら自分が戻ってくるまで、という時間制限だったらしい。

「え、あ。お帰り」

手を止めたが振り返って加州に声を掛ける。

「ただいま、主」

「岩融さん、今日はありがとう」

「おう。いつでも相手になってやるぞ」

岩融に礼をしては木刀を仕舞い、入り口に駆けてきた。

「加州さん、お疲れ様でした」

ぺこりと頭を下げるに「ただいま主」と先ほど同じ言葉を繰り返す。

「それで」

「主、報告は部屋に戻ってからでいいのではないかな?」

「あ、そうですね。加州さんもお風呂に入って汗を流してきてください」

「ん、わかった」

頷いて去っていく加州を見送っていると「主も、湯を浴びておいで」と歌仙に言われた。

「はーい」と返事をして彼女は下駄をつっかけて駆けていく。

刀剣男士用の風呂は大浴場だ。短刀を半分くらい含めれば10人程度なら一度に使用可能なほどの広さである。対して、彼女専用に小さな個室風呂がある。どちらも湯が湧いている温泉なので、いつでも湯を浴びることができるのは非常に便利なところである。

「聞いたが、お前は主を指南したことがないそうだな」

「僕かい?そうだね、僕は主にもう少し大人しくしてもらいたいと思っているしね」

「しかし、大人しいだけのおなごだと面白みがないだろう」

「戦うのは僕たちの任だ。主が戦わなくてはならない状況には決してさせない」

「なるほど、それは俺も同じ気持ちだ。だが、主は体を動かすことで『すとれす』を解消していると言っているぞ?」

「すとれすというのが、何なのか主の説明ではいまいち要領を得なかったけど、溜めたらよくないということだけは僕も理解している。だから、こうして道場に同行しているんじゃないか」

「主に甘いのだな」

指摘してがははと笑う岩融に苦い表情を向けて歌仙はの執務室に向かった。


ペタペタと廊下を歩く音が聞こえる。

こんなに足音をさせるのはこの城では以外にいないので、それだけで彼女が戻ってきたのが分かる。

「ただいま」と戻ってきたに歌仙は目を剥いた。

「また碌に髪を乾かさずに。主、こちらに来なさい」

手ぬぐいを肩にかけて戻ってきた彼女を歌仙が手招きをする。

「はーい」と彼女は歌仙の前にすとんと座った。

「報告してもいい?」

そんな2人の様子をほほえましく見守っていた加州が話を切り出す。報告のためにすでに部屋に控えていたのだ。

「あたしは良いけど」

「ちゃんと聞かないと駄目だよ。加州、すまないけどもう少し待っててくれるかい」

「はーい」

手持無沙汰になった加州はとりあえずお茶を淹れることにした。

歌仙が出陣する際には誰かが代わりに近侍を務める。

大抵が初期鍛刀の小夜だが、他の者も興味本位で近侍をしたいということがある。

はたくさん話ができるから別にかまわないというので、歌仙の裁量で小夜以外の者も近侍となる。

向き不向きがあるのでそれはある意味賭けだ。

加州は細やかに気が付くほうなので、歌仙は時々彼に声を掛けている。

よって、この部屋の配置は把握している。

3人分の茶を淹れ終わったころに、歌仙に解放されたが少しだけ彼から距離を置いて座る。

歌仙は文句を言いたげな表情でを見ていた。

「ほら、主」

「ありがとう」

「歌仙さんも」

「ありがとう、手間をかけさせたね」

「それで、報告なんだけど」

そう前置きをして加州が姿勢を正し、彼女も姿勢を正した。

今回の出陣でけが人はなく、また刀装もさほど破壊されなかったという。

「すごい」との口から零れた言葉に加州ははにかみ、「ありがとう」と返す。

「それでね、主。そろそろ次の時代に行っても大丈夫かなって思う」

「そうだね」

加州の言葉に頷いたのは歌仙だった。

「今、みんなのレベル底上げしてるんだったよね?」

が歌仙を見ると彼は頷く。

「練度だね。うん、少しばらつきがあったから揃えておきたかったという意味もあったよ」

「じゃあ、次のステージに行っても大丈夫って2人は思ってるんだね」

「すてーじ。時代の事かな?うん、そうだね」

「じゃあ、今日編成を考えるの手伝ってもらえますか」

歌仙に視線を向けたの問いに彼は「もちろん」と頷く。

なるべくそういうことも自分が関わりたいとが言うので、基本的な編成はが考えて歌仙が修正をする。修正をする際には、なぜこの編成にした方がいいと考えるのか、きちんと説明したうえでの事なので、も納得してその編成に変える。

納得がいかなければ誰かを呼んで意見を聞き、再度考え直すというのがこの城での編成業務だ。

「あ!次のステージに行くんならお祝いだ。イノシシ狩りに行こう」

すっくと立ち上がってが2人に訴えたが、全く反応がない。

「……山伏さんに頼んでこよう」

「待ちなさい、主」

以前、城下の者に頼まれ、農作物を荒らす害獣としてイノシシ狩りをした。その際、彼女が興味本位で付いて来たのだ。

目の前で行われたイノシシ狩りをいたく気に入ったらしい。

何より、その日の晩御飯は牡丹鍋だった。非常においしかった。

「お祝いと言えば、鯛だ。鯛にしよう」

「鯛も美味しいけど……」

「俺も鯛が良いな」

続けた加州。現状2対1だ。

「わかった。今日は加州さんが部隊長で出陣してくれたから加州さんのリクエストで」

「ありがと」

ニコリと微笑んで加州は礼を口にする。

歌仙も加州に対して視線で礼を向けた。

(ま、いいよ)

主を危ない目に遭わせたくないってのは分かるから、と心の中で付け足して「じゃ、俺もう行くね」と立ち上がり、部屋を後にした。









桜風
16.3.28


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