| 本丸を出て翌日の昼下がりには本丸に帰ってきた。会議は、通常半日程度で終わるため、その後乱とデートをし、一泊してきたということだ。 少し疲労の色が見える彼女の表情に歌仙は苦笑する。 「お帰り」 「ただいま。土産なら乱が持っていったぞ」 「後でお呼ばれするよ」と返事をしながらの上着を受け取った。 政府は刀剣男士と審神者のために一つの街を作っている。刀剣男士を現世の街中で自由に行動させるのは危険だという意見があった。しかし、相手は神だ。もてなしというものが必要になるかもしれない。 よって、政府による刀剣の付喪神のための街を作った。その街の中では審神者と刀剣男士は自由に買い物を楽しむことができる。ちょっとしたテーマパークや温泉もあるため、本丸の慰安旅行を計画する審神者もあるとか。 歌仙にはそこにお気に入りの茶屋があり、彼女の供をするときには必ず寄っている。 おそらく今回の土産はそこで購入してきたものだろう。彼女のおすすめとして。 「今日はいつもどおり出陣部隊を編成したよ」 「わかった。少し休むから戻ってきたら声を掛けてくれ」 「亀甲貞宗の初陣だ」 のろのろと寝所に向かっていた彼女の足が止まる。 「ああ、そうか。そういう段取りだったな」 言いながら振り返ったに「浅い時代に出陣させているよ」と歌仙が彼女の懸念を察して応えた。 「お守りは?」 「持たせている。ついでに言うと、部隊長は五虎退だ」 「なら安心だな」 彼女は頷く。 浅い時代、つまり敵はあまり強くなく、数も多くない戦場ではあるが、何があるかわからない。大抵の場合、部隊長の判断で進撃又は帰城を選択することになる。 五虎退は慎重な性格をしてる。無理を押しての進撃はまずないだろうし、仲間の様子もよく見てくれるだろう。 「じゃあ、私は休む」 「お疲れ様。会議の報告は明日の方がいいかな?」 「そうさせてくれ」 現世での会議の内容については、近侍である歌仙と共有することにしている。彼が同行できない場合には、帰ってきての報告だ。が数日本丸を空けても大丈夫なように歌仙には自分の得た情報を全て提供している。――ただ一つを除いて。 亀甲はポイントカードを眺めて笑みを浮かべていた。初陣で三枡埋まったのだ。この調子で行けば二十枡なんてあっという間だ。 「亀甲さん、僕もう寝ますよ」 声を掛けられて振り返ると物吉が布団に入っていた。 「あ、うん。おやすみ」 挨拶をして部屋を出る。戦闘した日は興奮して眠れなくなる者があると聞いた事があるが、自分もその一人だったらしい。しかも初陣だ。昂ぶるというものだ。 ふと、庭に視線を向けると明滅している灯りがある。 「蛍かな?」 蛍ならば採って主に見せれば喜ぶかもしれないと思い、近くの階から庭に降りた。下駄を履き灯りのある方に足を向けると、人影がある。 「……ご主人様?」 縁側で胡坐を掻いて彼女は空を見上げていた。 亀甲が倣って空を仰ぐが何か変わったものはない。彼女は何を見ているのか。 「ご主人様」 カラコロとなるべく音を立てて彼女の元に足を向ける。静かに近づいて声を掛ければ驚くかもしれない。不快な思いはさせたくない。 「亀甲か。どうした、眠れないのか」 彼女の口元には煙草があった。遠くから見た明滅している灯りは彼女の煙草の火だったようだ。 「うん、ちょっとね」 「繊細だな」 「ご主人様はいつもここで煙草を吸っているの?」 ここは彼女の部屋の前ではない。少し離れた場所だ。 「吸うときはここで。ただ、毎日というわけじゃない。歌仙がうるさいからな」 「あ、そうだ。ねえ、ご主人様。見て!」 懐に入れていたポイントカードを彼女に差し出す。 「ん? 誰かが押したのか?」 「うん。五虎退と前田、秋田の三人が押してくれたんだ」 「御祝儀だな」 判を確認して彼女が亀甲にそれを返す。 「御祝儀?」 「初陣の祝いのようなものだ。粟田口の短刀は初陣の者と出陣したら大抵押すらしい」 「……僕の実力じゃないのか」 肩を落とす亀甲には笑った。 「まあ、気を落とすな。出陣出来るようになっただけでも成長だ。少なくとも、お前に背を預けてもよいと他の者が認めているのだから」 「僕はもっと活躍してご主人様からご褒美を賜りたいよ」 「そんな大層なもんはやれんぞ」 クツクツと笑いながら彼女が言う。 「ポイントカードって他の本丸にもあるの?」 「さあな。本丸の中の制度は審神者の裁量によるから、全部の本丸で共通した制度というのは案外少ないんだ」 の言葉に亀甲は頷く。では、何故。 「じゃあ、どうしてぽいんとかーど制度なんて作ったの?」 「応えられていないと思ったからかな?」 煙草の火を消しながら彼女が言う。 「私は人間だ。そして、亀甲を含めて、この本丸に在る刀剣男士は皆神に名を連ねる存在だ。そんな神に褒美など不遜かとも思ったが、私を主として認めてくれている以上、主でなくてはならない。主として皆に応える義務があると思っている。ただ、一度に全員と言うのは無理だし、こちらで順番を決めることも評価することも難しいからお互い認めてもらうことにした。ポイント制にしたのは、ちょっとした遊び心だな」 いたずらっぽく笑った彼女の表情はいつもよりも幼く見えた。 「ご主人様。僕、あっという間にぽいんとをためてご褒美を賜るからね」 「ああ、待っている。ただ、私が与えられるものなど少ないから、そこら辺は考慮してくれよ」 笑って言う彼女に「わかったよ」と亀甲は頷いた。 |
桜風
17.5.6
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