| 新しい刀剣男士をさらに迎え、本丸が大きくなっていく。 本丸は普通の空間とは違う別の場所にあるため、人が増えれば勝手に建物が大きくなる。 最初は戸惑いを覚えたがいつの日か気にしなくなった。 亀甲のポイントカードが三冊目を終えようとしているころに、珍しい情報があった。 新しく時間遡行軍の動きを掴んだという連絡があったのだ。しかし、それは政府からの者ではなく、の実家からだった。 「どうするんだい?」 「勝手に諜報活動をしているというのは聴いたことがあるからな……」 モバイルの文字に視線を落としたまま彼女が呟く。 「お家は君に功績を上げさせたいんだろう?」 「うん、まあ……」 「珍しく歯切れが悪いね。何か気になることがあるかい?」 「大体あまり面白くない情報がある場合は、こんのすけが持ってくるだろう」 彼女の指摘で過去を思い出した歌仙は「確かに」と思わずうなずく。 「諜報活動を行っていると言っても物量で言って政府の方が上だ。ウチが掴める情報は、政府が掴んだうえで捨てた物の可能性が高い。実家からといってもな、信ぴょう性が低すぎる」 「政府も派閥争いがあるんだろう? 軍……武家ならその派閥のどれかに属している、または手を組んでいるということはあるんじゃないのかい? 足の引っ張り合いをしている政府の横で迅速に動いたのが主のお家という考えはないかな?」 暫く沈黙し、思案していたは「では」と口を開く。 口にした編成を耳にして歌仙は「待ってくれ」と思わず膝立ちになった。 「僕が出陣?」 「今、難しい案件の遠征で高練度の者の多くが出払っているだろう」 「まずは斥候だけというのでもいいんじゃないのか? 主の側を離れるのは心許ない」 「怖気づいたか?」 「そうじゃない。主を守れないじゃないか」 「ウチにいる刀剣は全て名刀だ。練度が低くとも私を守れる。心配するな。それに、この本丸は外界と隔絶されたところにあるらしいからな。簡単には侵入できんよ」 翌日、敵の本拠地として情報がもたらされた場所まで来たが、何もない。 「空振りのようですな」 今回の出陣は高練度の者で固めている。夜戦に対応できるように刀種にばらつきを持たせていた。 「では、本丸に戻って報告をしましょう。主のお家の情報とのことでしたが……」 彼が飲んだ言葉はきっと非難のそれだ。自分も毒づきたいのを我慢してここにいる。 「君が出陣したというのに、空振りなのは少しもったいなかったね」 声を掛けてきた亀甲に「そうだね」とぞんざいな返答をして帰城への道を急ぐ。 城に戻った歌仙は瞠目した。 城が荒れている。 「主!」 駆けだした歌仙の後を共に出陣した仲間が追いかけた。 審神者の執務室にたどり着くとそこが最も荒らされていた。 「主! 隠れていないか。主!」 土足で執務室に入り、寝所なども探したが彼女の姿はなかった。 「歌仙さん」 呼ばれて駆けていくとナイフで固定されている手紙が壁にあった。 『主を無事に返してほしければ子の刻までに政府を襲撃し壊滅させろ』 読みづらい文字ではあったが、そういった内容だった。 「歌仙!」 遠征から戻ったらしい他の者たちがやってきた。 「留守を任せていた者たちは」 ハッと気づいて歌仙が誰に問うでもなく口にした。 「重傷ばかりだが、まだ息がある。折れていない」 「主を守らず、命を存えた……?」 歌仙の呟きに皆が瞠目し、ただ一人彼を殴り飛ばした男がいた。 「ご主人様の最も近くに在りながらその願いを知らないとは言わせないよ」 亀甲貞宗だった。 「……歌仙、これはおまんも知らん、想定できんかったことか」 陸奥守が声を掛けてきた。 呆然と頷く歌仙を見て彼は床に這いつくばった。 「陸奥守さん?」 怪訝そうに声を掛けてきた堀川に「主の耳飾りが落ちちゅうはずじゃ。おまんも探してくれ」と返した。 「はい」 動ける者で本丸内を捜し、やっと彼女がいつも身に着けているピアスを見つけた。肉片の付いたそれを発見した前田は息をのんだ。これを必ず本丸内に残そうとした彼女の意志を感じた。 「主も無茶しゆうな」と言いながら陸奥守は受取り、彼女の文机の引出しを漁り始めた。 「陸奥守、何をしてるんだ」 「ここに入れとくっちゅう話じゃった」 引出しを全部出してみたが、目的の物がない。 「聴き間違い。もしくは主さんの気が変わって別のところに隠したんじゃ……」 「いーや。主は、これは保険だからと言うとったぜよ」 返しながら彼は引出しを観察し、「これか!」と隠し蓋を見つけた。それを取ると中から小さな箱が出てきた。 それに先ほど前田が見つけた彼女のピアスを入れると宙に地図が浮かぶ。地図と言っても等間隔の円が浮かび、端の方に光がひとつぽつんとあった。 「何でしょう、これは」 「動いてないな」 「主はここじゃ。地図はないがか!」 慌てて軍議部屋から地図を取ってきた前田が渡す。 「ここら、になるな……」 地図と照らし合わせていた陸奥守が指で円を描く。 「君は、主からこれを託されていたのか?」 歌仙が呆然と呟いた。彼は聞かされていなかったらしいと皆がその時気づいた。 「そうじゃ。主がこれを弄りゆう時にちょうど出くわしてな。わしが興味持ったら教えてくれたきに。もし、自分が不在で歌仙が行き先を知らんかったらそれは事件じゃきに、任せた言うて。歌仙に任せんのは、適材適所ちゅうて笑いゆうて」 「確かに、僕はそういう物が苦手だ……」 「さあ、近侍殿。次はどうするがか? 政府を壊滅させに行くっちゅう手もあるぜよ」 挑発するように言われて歌仙は瞑目した。自分の不在で主が危険な目に遭った。それが不安で、恐ろしくて狼狽した。仲間の命を軽く見た。 あとで主に説教されるな、とひとつ笑いを零す。 「主の救出だ。おそらく主も傷を負っている。刀剣の僕たちに比べて人間は脆いからね、急ごう。場所は大まかなところしかわからないだね」 歌仙の確認に陸奥守が「そうじゃ」と頷く。 「では、部隊を分ける。おそらく敵の中に政府に通じるものがいるはずだ。子の刻までに主の居場所を確定させなくてはならない。夜戦で、室内戦になるだろうから、大太刀、槍、薙刀、太刀は留守を頼む。負傷している者たちの手当てを」 「応」と返事がある。 「出陣可能な者は? 短刀はすまないが伝令役をしてくれ」 「軍議部屋に移りましょう」 促されて皆がの執務室を出ていく。 「目が覚めたよ」 亀甲に一言向けて歌仙は執務室を後にした。 |
桜風
17.5.28
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