秋さに 01
| 静寂の中、火鉢の中の炭がパチリと時折爆ぜる音がする。 今、城にいるのは自分一人ではないかという錯覚を覚えながら「うー……」と唸るように声を漏らすのはこの城の主で、彼女は只今布団の中にいる。 いつもの掛布団では足りないだろうとどこから持ってきたのか布団はもちろん半纏や襦袢など色々と乗せられて正直重いことこの上ない。 だが、それは彼らの心配りと思って大人しく受け取っている。 唸ったのは布団が重いからではなく、体調を崩してしまっているからなのだ。 先日、雪が降った。 犬は喜び庭駆け回る。審神者も庭を駆け回った。 すると見事に風邪を引いた。 一緒に駆けまわった少年の姿をした短刀たちはケロリとしているというのに、ひとり風邪をひいてしまったのだ。 彼らは付喪神で、神の末席に連なる存在でもある。よって、風邪をひかない。 その理屈でも構わないのだが、ひとりだけ風邪をひいてしまっては締りが悪い。 もちろん、彼らに風邪をひいてほしいなどとは思っていない。 つまり、風邪をひいている自分が恥ずかしい。 「うー」と唸っていると「主君」と廊下から声がした。 薬は先ほど飲んだ。めちゃくちゃ苦かった。 「味見した?」と問えば「薬に味見が必要だとは知らなったな」とからかわれてしまった。 苦いのは分かっていることだったようだ。 彼女は薬の味を思い出しながら「なに?」と外からの声に応じた。 返事をしたつもだりだったが、掠れてうまく声が出ない。 「開けますね」 そういって障子戸を開けてきたのは秋田藤四郎。 この城に在る短刀の一人で、先日一緒に庭を駆け回った仲間でもある。 「大丈夫ですか?」 彼女は声を出すのをあきらめて布団から少しだけ手をのぞかせてパタパタと振った。 大丈夫、と。 心配そうな視線を向けてくる彼に苦笑いをひとつ零して手招きをしてみる。 本来刀剣である彼らに人間の病気は移らない。人の身を得ているがそこは明らかに違うところだという。 ならばその言葉を信じてみよう。 彼女の手招きに応じて秋田が部屋に入ってきた。 「主君」 しょんばりと彼女の顔を覗き込んで彼は呟いた。 彼女は秋田の手を取って頬に充てる。 目を丸くして驚く彼に反応を見せることなく彼女は目を瞑る。 彼らは刀剣だ。よって、人間の体温よりも彼らのそれは低い。 「きもちー」 掠れた声で彼女は零す。 「主君は、暖かいです」 「これは、“熱い”というんだよ。熱があるもん」 自分でもよくわかる。今感じているふわふわとした浮遊感は、熱があるときの症状のひとつだ。 何より普段は少し冷たいなと思う秋田の手が気持ちいい。 「つらいですか?」 心配そうな声音で問われて 「多少」 素直に答える。早く良くなりたい。 だが、そのためには大人しく寝ておく必要がある。大人しく、というのは意外と苦手だ。 そのことを秋田に話すと彼は「少し待っていてください」と慌ただしく部屋を出て行った。 ぽつんと残された彼女は先ほどよりも余計に寂しさを感じる。 元気だったら大抵誰かが部屋を覗きに来るが、今は絶対安静などと吹聴されて誰も様子を見に来てくれないのだ。 (じゃあ、何で秋田くんは来たんだろう?) 絶対安静の御触れは本丸全体に行きわたっていると思っていたが、もしかしたら彼は遠征に出ていて知らなかったのかもしれない。 うつらうつらしていると人の気配がして目が覚める。 目の前に秋田の顔があり、少しだけ驚いた。 「ごめんなさい、起こしてしまいました」 彼女は首を横に振った。「ずっと寝てるから」と付け足す。 「今日は僕が看病します」 腕まくりを始める秋田に彼女は首を傾げる。 「さっき許可を取ってきました。今日は僕が主君のお側に仕えます。だから、辛かったら言ってください」 「ありがとう」 ふにゃりと笑うと秋田は頷く。 「僕、主君のために頑張りますね」 気合を入れる秋田に「お願いします」と彼女は返した。 |
桜風
(15.12.23初出)
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