ぶしさに 01






 ここ最近、城内でとある噂が広まっている。

主である審神者が武術を教えてもらいたいと、この城に在る刀剣たちに弟子入りを願い出ているらしい。

しかし、そんな危ないことはさせられないと皆断っている。少し気の弱そうに思えるあの五虎退ですらきっぱり断ったと聞く。

武術ではなく運動などと言われればともに本丸の庭を走ったり、腕立て伏せや腹筋くらいなら彼らも付き合っただろう。

だが、彼女が求めているのは武術だ。

「女人がはしたないよ」

そう言ったのは歌仙兼定で、彼女はこれでもかというくらいに頬を膨らませて不満を表現した。

(噂には聞いていたけどね...)

そう思いながら歌仙兼定は手を伸ばして彼女の頬を挟んだ。

ブッと空気が出て彼女の頬も萎む。

「君はどうして武術を会得したいんだい?」

「まずですね、歌仙さん。私の時代では、女性も戦えます。その気になれば武術なんて習えます。柔道、剣道、合気道..テコンドー?とか色々。女人の武術、はしたなくない」

彼女の反論に歌仙兼定はひとつ頷く。

「なるほど。それに関しては謝ろう。でも、君は習っていなかった。必要なかったからだろう?」

「...そうとも言います」

ふてながら彼女は頷いた。

「うん。それで?では、なぜ今ここで習いたいと思い始めたんだい?」

「皆さんの力になれるかと思って」

「はい、却下」

そう冷たく言い放って歌仙兼定はいなくなった。

どうやら先ほどの「力になりたいから」は却下の決定的な理由になるらしい。


(なんで駄目なのよ...)

昔から快活だった彼女は体を動かすのは好きだし、そこらの男子よりは強かった。

しかし、その強かった時代は10代前半までで、それ以降は男子に相手されなくなった。

理由はわかっている。相手が男で、自分が女だから。

女が男よりも腕力で強いのは、せいぜいローティーンまでだ。わかっているが、それでも役に立てる何かがあるかもしれないと思っていたのだ。


とぼとぼと城の中を歩いていると向こうから修行好きの山伏国広がやってきた。

彼女は駆けだして「山伏さん」と弾む声で名を呼ぶ。

「ああ、主殿。どうされた?」

「お願いがあります」

「うむ。屋根瓦の葺き替えであるか?それとも、雨戸の修理」

これまで数々の雑事を頼んできたので、彼もそういった類のお願いだと思ったらしい。

だが、彼女は首を横に振り、「武術を教えてください」と言った。

「武術、であるか。それは何故に?」

(来た...!)

また理由を聞かれた。

彼女は正直に話した。嘘を言っても結局ばれるのだ。

正直に言った彼女は覗うように山伏国広を見上げた。

彼は苦笑を浮かべていた。

「拙僧らの誇りを取ってくださるな」

「誇り、ですか?」

「左様。拙僧らは主殿の声に応じてこの世に顕現した。主殿は我らに力を貸してほしくて呼んだのであろう?」

そう言われて彼女は頷く。最初は“そういうもの”として刀剣を呼び出していたが、いつしか力を貸してもらいたいという気持ちになった。
「その声に応じてここに在る拙僧らは、主殿に力を貸すのが誇り。そして、主殿は拙僧らが戻る標なのだ」

「標?」

「ここが、拙僧らが戻る場所。拙僧らの家という事であるな」

うむ、と頷きながら山伏国広が言う。

「ゆえに、主殿は、拙僧らに守らせてもらいたい。そのために拙僧は日々修行に励んでいるのである。主殿の気持ちはありがたいが...これは、譲ることは出来ぬことである。そうであるな、役割分担と考えていただけぬか」

「役割分担、ですか?」

こてりと首を傾げて彼女が問う。

「左様。拙僧らは城の外で主殿の愁いとなっている敵を討伐する。主殿は、拙僧らの帰るべき標となって、傷ついた拙僧らの傷を癒してくださる。拙僧らは、己が傷を癒せない。ゆえに、主殿のその力をお借りしている。ちゃんと主殿も拙僧らの力になっていただけているということである」

なるほど、と彼女は頷いた。

「私、ちゃんと皆さんのお役にたっているんですね」

「勿論。如何に修業を積んで練度を上げたとしても、いずれは傷ついてしまう。主殿なしでは拙僧らは存続しえないというものであるからして、主殿は拙僧らが守るお方ということである」

深く頷く山伏国広に「えへへ」と彼女は満足気に笑い、「お騒がせしました」と言ってパタパタと廊下を走って行った。

(元気であるな)

山伏国広はその背を微笑ましく見送っていたが、彼女がくるりと反転して駆けてきたので首を傾げる。

「あの、やっぱり...怪我はしないでください。痛そうだし。あ、でも!もちろん皆さんが怪我をして戻られたら全力で手当てしますよ」

そんな風に言われて山伏国広は「カカカカカ」と豪快に笑った。

「心得た。拙僧も主殿の御手をなるべく煩わせることが無いよう、更に修業を重ねよう」

「はい!」

満面の笑みで頷いた彼女は「では!」と敬礼をして再びかけて行った。









桜風
(15.8.9初出)


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