ごとさに 01
| この城にやって来た後藤藤四郎は顔を合わせた主を見てグッと詰まった。 (俺より背が高い……) 「後藤藤四郎、これからよろしく」 ついと視線を向けた主はひと言置いて部屋を出て行った。 彼女の近侍を名乗る刀剣に案内されて部屋に行くと兄弟たちがわっと寄ってきた。 「おそーい!」 「お待ちしていました」 「いらっしゃい」 それぞれが歓迎の言葉を口にする。後藤は自分の胸が温かくなるのを感じた。 人間の姿で人の世に降りることがあるとは後藤を含め、ここにいる誰もが想像すらしなかったことが現在起きている。 「なあ」とそばに居た五虎退に声を掛けた。 「な、なんですか?」 緊張したように返事をする兄弟の耳元にそっと口を近づけて問うてみた。 「主って、どんな人?」 初めて目にした主は少し冷たい印象があった。 だが、問えば皆が「優しい人」と言い、場合によっては「照れ屋さん」と言う。 照れ屋というのはどういうことだろうかと後藤は考えた。物陰に隠れて主を観察してみたが、よくわからない。 彼女は大抵大きな姿をした者と共に過ごしているようだ。理由はわからないが、大きな者を気に入っているのかもしれない。 つまり、短刀である自分に主から声が掛からないのは小さいからだと後藤は結論付けた。 ならば、兄弟たちの言う「優しい」とはどういうことだろうか。 「主も可愛いところあるよね」 通りかかった部屋からそんな声が聞こえた。確か、大太刀の次郎太刀の声だ。 「だって」と返される声は主のそれで、後藤は思わず足を止める。 「比較対象が大きいと私が小さく見えていいんだもん」 「気にするほど大きくないでしょ、主は」 「短刀の子たちよりは大きい」 彼女が返した言葉に次郎は声を上げて笑った。 「なによ」 「あっちが気にしていないならいいじゃない」 「私さー。こっちに来る前からこの背の高さなのね。男の子に大女って笑われてたの。生意気だっていう人もいた」 「体が小さい上に器も小さいんだね、主の時代の男たちは」 「だから、大きな人のそばに居て自分を小さく見せるの。私の出した結論よ」 「気にすることないのに。主の背がちょっとばかし大きいからって気にしてとやかく言うやつがいたら、アタシが尻をひっぱたいてやるから安心しなって」 豪快に笑う次郎の言葉に「お尻が大変なことになりそうね」と彼女も笑う。 大きな刀を側に置いているのは、自分を小さく見せるためだと次郎は笑い、彼女が認める。 大きな刀を気に入っているから側に置いているというわけではないようだ。 「変なの……」 大きければ大きい方がいいに決まっていると思っている後藤は彼女の思いを理解できなかった。 だが、これでわかった。彼女の側に在るためには大きくなければならないらしい。 大きくなるためにはどうしたらいいのかと悩み考え、少なくとも兄の背は追い越したいと思って聞いてみた。 しかし、兄は苦笑して「私はこちらに招かれたときからこの大きさだから、よくわからんのだよ」と返され、「それもそうか」と納得する。 成長ということなら人間に聞くしかないと思い、主の姿を探した。 この城唯一の人間だ。 「大将!」 呼ばれて彼女は振り返る。目を丸くしているのは隣に立っている燭台切も同じだった。 「どうかした?」 駆けてやってくる後藤の姿に何か問題でもあったかと彼女は問いかけた。 自分を心配する眼差しにどこか居心地の悪さを感じてしまう。 「人間って、どうやったら背が伸びるんだ?」 「え?」 「あー、後藤君」 本人が気にしていることをズバッと聞く彼に何と注意していいものやら、と燭台切が言葉を探していると「牛乳?」と彼女は首を傾げる。 「牛乳、って何だ?」 「牛のお乳。でも、そのまま飲むと雑菌とかあるから、こっちだと沸騰させるしかないのかな?」 顎に手を当てて少し俯き加減に彼女が呟く。 「ヤギの乳と違うのか?」 「どちらかと言えば、私の時代にはヤギのお乳は飲まないから効能が分からないなー」 「大将はたくさん飲んだのか?」 問われて彼女は苦笑を返す。 「そんなにたくさん飲んでないけど、成長する人もいるのよ」 「後藤君……」 そろそろこの話題をやめたらどうかな、と思いながら燭台切が声を掛けると後藤はひとつ頷いた。 「大将!」 「なに?」 「俺、いつか大将よりもでっかくなるからな!」 高らかに宣言した後藤は満足したようにひとつ頷き、彼女の前を去っていく。 「え、と。あ、うん」 ずんずんと歩いて行く後藤の背に向かって彼女は呆然と頷いた。 |
桜風
(16.5.15初出)
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