ひまわり






この城の主が視線を向けている先には大きくなりたいと公言している短刀の姿があった。
人の姿をしているとはいえ、彼は刀剣。はたして成長できるのだろうか……
ふいに後藤と視線がぶつかるが、その瞬間ふいとそっぽを向かれた。どうも彼には避けられているようだ。
「主よ、戻ったぞ」
欄干で頬杖をついていた彼女に声を掛けてきたのは近侍の三日月で、先ほどまで出陣していた。
「ああ、おかえり。お疲れ様。けが人は?」
「案ずることはない。みな無事だ。それと、これが届いていたぞ」
彼女の時代からの届け物に好奇心を乗せた視線を注ぎながらまずは彼女に手渡す。
「ああ、そうそう。待ってたの」
「それは何だ?」
「向日葵の種だよ」
「ひまわり?それはうまいのか?」
「食べたことない。種は食べられるって聞いたことはあるけど。花が咲くの。大きな花」
「花か。皆がっかりするな」
「するかな?」
「さてな。主、少し席を外すぞ。武装を解いてくる」
「ついでにちょっと休んでおいで。今日の仕事終わってるし」
「言葉に甘えよう」
三日月から受け取った種を持って彼女は庭に降り、その一角を花壇と定めて鍬を探しに畑に向かった。
「主殿、如何されましたか」
額に汗して畑の世話をしている蜻蛉切に声を掛けられ「鍬を貸してほしいんだけど」と彼女が言う。
「鍬ですか?危ないので自分が耕しましょう。畑を拡充されるのですね」
「いや、畑っていうか、花壇。いいよ、仕事の邪魔できない」
「ですが……」
渋る蜻蛉切に「俺が手伝うってのだったらどうだ?」と声が掛けられた。
振り返るとそこにいたのは後藤藤四郎で、それならと彼は鍬を貸してくれる。
「大将、どこだ?」
「こっち」
先導する彼女の後ろを歩く後藤の姿を目にした彼の兄弟たちがやってきて、短刀数人で花壇を作ることになった。

後藤たちが庭を耕している隙に彼女は一旦自室へと向かい、庭に戻ってくる。
「こんなもんでどうだ?」
「いい感じ」
「それで、主君。何を植えられるのですか?」
「向日葵」と種を見せる。
「なんだ?」
「花よ。食べ物を期待していた人はがっかりかもだけど」
言うと、期待していた者があったらしく肩を竦めたり視線を外したりと反応がある。
「さて、種を植えます。そして、自分が植えた種のところにこれに名前を書いて挿してね。誰の花かわかりやすい」
彼女が一旦自室に戻ったのはこれを書くためのものを取りに行ったのだ。
皆がそれぞれ自分の名を書き、種を植えて挿していく。
「どれくらいで芽が出るんですか?」
途端に楽しみになってきた。誰がいちばん最初に芽を出すのか競争だと言っている者たちがいる。
「大体二十日くらいかな?ぐんぐん伸びていくよ」

それから毎日短刀たちが花壇の前に立つようになった。
水を遣り、雑草を毟って世話をする。畑仕事よりもよほど熱心だと笑う者もいた。
彼女の言ったとおり芽が出るとそのままぐんぐんと茎が伸びていき、あっという間に背を抜かされた者もいた。
「これが向日葵か」
ふいに背後から声を掛けられて後藤は思わずその者と距離を取った。
「どうした」
揶揄するように問うのは三日月で、後藤はため息を吐いた。
「びっくりしただけ」
「主の住んでいた場所では、夏と言えばこの花だそうだ」
言って見上げる。自分の背よりも高いところにある花。
「先日、お前さんの兄弟たちが主と話をしていたぞ。この花は太陽の動きに合わせて動くらしいぞ」
「へ?」
「太陽に恋をしているそうだ」
いたずらっぽく笑って言う三日月の言葉に「へー」と後藤は相槌を打った。
「お前さんみたいだな」
「は?!」
慌てる後藤に三日月は鷹揚に笑った。
「お前さんの兄弟たちがな、主のことをお日様みたいだと言っていた。お日様を目で追うのならそれは向日葵だろう?」
同意を求められてもここで頷けない。
「俺たちは刀剣だ。これ以上見てくれは大きくはならんだろう。だとしたら、あとは器を大きくしていくしかない。それが俺たちの成長というものなんだろうな」
何を言い出すのだろうと警戒していると「三日月!」と彼女の声が聞こえた。
「こんなところにいた。後藤も一緒なのね」
涼しげな浴衣を着て彼女がやってくる。
「あー、後藤のがいちばん成長してるね。おっきいなー」
手庇を作って花を見上げる彼女は笑っている。
その笑顔に見惚れているとにやにやと笑う三日月の顔が視界に入った。
ふいと背を向けた後藤に彼女は首を傾げ、三日月を見上げた。
「けんか?」
「いや、なに。若者をからかっただけだ」
「それ、嫌われるやつだよ」
「そうだな」
ゆったりと頷いた三日月は楽しんでいるようで「ほどほどに」と彼女は呟いた。









桜風
(16.6.1初出)


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