お月見






 本日の出陣、遠征の部隊長が審神者に呼ばれ、何事だろうと皆は緊張しながら彼女の部屋に向かった。

「主、如何されましたか」

「今日の出陣及び遠征場所で薄が生えている場所ってあるかな?」

そう問われて皆は顔を見合わせた。

「俺の部隊が行く先で見たことがあると思いますが……」

長谷部が言うと「じゃあ、取ってきてください」と言われた。

「は?」

「今日は十五夜です」

彼女の一言に皆は目を瞬かせた。



思いのほか今回の任務に時間がかかってしまい、本丸に戻った時にはすでに日が暮れていた。

薄を手に本丸の廊下を歩いていると団子が供えてあり、それを挟むように一本ずつ花瓶が置いてある。

つまり、薄待ち状態のようだ。

(急いで主にお渡ししなければ……)

彼女の部屋に向かおうと足を速めると「すとーっぷ」と団子が飾ってある正面の部屋から声がした。

今は誰も使っていない空いている部屋だ。

その声は彼女のもので、長谷部は足を止めて部屋の中を覗き込んだ。

ごろんと寝転んでいる彼女の姿がある。

「主、遅くなりました」

「いいえー。お疲れ様。変なことを頼んでごめんね」

彼女は体を起こしてそう言った。

「挿しておけばよろしいでしょうか」

「よろしいです」と頷く彼女の言葉を受けて長谷部は薄を挿した。

これで月見の飾りは完成だ。

「ありがとう」

彼女が部屋から出てきて縁側に座る。

「じゃあ、食べちゃおう」

「は?」

「ん?」

団子に向かって手を伸ばしている彼女はきょとんと長谷部を見上げた。

「あ、いえ。飾っておくのではないのですか?」

「お団子は美味しいうちに食べたいじゃない」

彼女は笑っててっぺんの団子をひとつ抓んで口の中の放った。

「私も作るの手伝ったんだよ。長谷部も食べて」

「……では」と長谷部も団子に手を伸ばした。

「ねえ、長谷部」

「はい」

団子を口に入れようとしていた長谷部が手を止めて彼女の言葉を待つ。

「月にはウサギがいてね、お餅をぺったらついてるんだよ」

彼女の言葉に「はあ」と曖昧に頷く。

「ほら、あそこにウサギが居てね、杵持ってるでしょ」

「なるほど。主の時代ではそんな話になっているんですか?」

「国によっては女の人の顔とか、蟹に見えるとかあるんだよ。月はいつでも身近だったんだろうね」

月を見上げる彼女の横顔を見て「はい」と長谷部は柔らかく微笑んだ。









桜風
(15.9提出)


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