風花






 着る物はすっかり冬の仕度ができているというのに、気温はまだ秋口のままだ。

吹く風にも冬独特の鋭さがなく、吐く息が白いのも早朝くらいのものだった。

去年の今頃はドカ雪を前に遠い目をしたのを思い出す。

「まだ冬が来ないね」

隣を歩く近侍に向かって呟くと

「毎年冬は嫌だってぼやいているのに」

などと返された。

先ほど万屋に向かった際に店主と客が話をしていた。

こんなにも冬が来ないのは何か悪いことが起きる前兆なのかもしれない、と。

その悪いことが起きたとして原因が自分にあるのではないかと余計な心配が頭をよぎる。

歴史修正主義者が各時代で歴史を変えようと暗躍し、それを阻止するために在る審神者と刀剣男士。

そんな異物を抱えた世界の歯車が狂い始めているのではないだろうか。

「難しいこと考えてる顔」

自分よりも低いところにある頭を見下ろして彼女は「ん?」と問い返す。

隣を歩くのは大太刀、しかし人の姿は幼い子供のような背丈の少年の蛍丸だ。

「普段あまり考えないのに」

「それはひどい」

彼の言葉に軽く返して彼女は空を見上げる。

青く澄んだ空。

空の色は少し淡くて、確かに冬の空の色だとは思う。

「蛍丸は雪が降ったらうれしい?」

「楽しいよ」

「子供ねぇ」

返した彼女の言葉にむっとしたのか

「俺よりも子供のくせに」

蛍丸が指摘する。

「ぴっちぴちです」

彼女が頻繁に口にする“ぴっちぴち”を正確には理解していないが、正確に理解するほどでもない言葉だというのは直感で分かる。

だから、詳細を尋ねない。

「主は雪降ったらいやなの?」

「寒いじゃない」

「冬が来てほしいのに?」

「季節は狂いなく巡ってほしい。でも、寒いのはいや」

「わがまま」

「否定しない」

他愛ない会話をしていると突風が駆けていき、彼女は思わずたたらを踏む。

蛍丸が彼女の背を支え、何とか尻餅は免れた。

ひらりと白いものが落ちてくる。

見上げても青空。

「雪?」

「山の向こうでは降ってるんじゃないかな?」

「あー、風が運んできたのか」

彼女は風の吹いてきた方角を見た。確かに山の向こうの空は少し暗い。

「よかったね、冬はすぐそこまで来てるよ」

「でも、寒いのはいや」

「わがまま」

「否定しない」

先ほどと同じ言葉を繰り返して2人は笑い、「帰ろっか」と彼女がいい「そうだね」と蛍丸は頷いた。









桜風
(15.12提出)


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