儚い火





 時折審神者であるに荷物が届く。

今日も小包が届いた。

好奇心が旺盛な者たちは、宛ての荷物が届くとその中身に興味を持って部屋にやってくる。

荷物の中身を確認した彼女は顔を上げてにっと笑った。

「よっし。今日は花火大会だ」

「花火?」

首を傾げた鯰尾には頷いた。

「そう、花火」

「でも、これ...」

何に使うのかわからないが、棒に紙が巻いてあるものがたくさん入っている。

花火と言えば、夜空に咲く大輪の花だ。

それがこの棒と何の関係があるのかわからない。

「ついでに、みんな和装。浴衣ね」

彼女に言われて浴衣を持っていない者たちは、普段和装で過ごしている者を探し回る羽目に陥った。

和装は体格に差があってもある程度何とかなる。


陽が落ちて夜になった。

は一人で浴衣を着ることができないので、近侍の一期一振に手伝ってもらって何とか着替えることができた。

「いや、言い出しっぺが申し訳ない」

が言うと一期は苦笑して「いいえ」と首を横に振る。彼はすでに和装となっていた。

寝間着は和装だが、それにするわけにはいかず、他の者を頼らなくてはならないひとりであった一期は今度誂えておこうと心に誓っていた。

庭に出ると、この本丸に在る彼らみんな和装でが出てくるのを待っていた。

「それで、花火大会って...」

花火師を呼んだ方がいいのだろうかと皆で相談したが、なんとなくそういうものではないと察して取り敢えず主であるに任せてみることにしていたのだ。

「これ、花火」

そう言って昼間に届いた荷物の中に入っていた棒を取り出した。

蝋燭を用意するように言われていた一期がにそれを渡すと彼女は行燈から蝋燭に火を移し、先ほどの棒の先に出ているひらひらとした紙に火をつけた。

やがてそれから火花が散り始める。

「おお...」

感嘆の感情を孕んだ声がざわりと広がった。

「あたしの時代では、夏になったらこんな花火をするんだよ。勿論、みんなが思い浮かべた花火もあるけど、あれは個人でどうこうするものじゃないから。というわけで、みんなで遊ぼう」

大量の花火を送ってもらった。

本丸の全員がそれなりに遊べる量だと思う。


彼女は縁側に腰を下ろした。

「ごめんね、一期」

側に控えているとそう声を掛けられて「何がでしょうか」と一期が問う。

「火を使う遊びで」

そう言われて彼は困ったように笑う。

「いいえ、お気になさらず」

彼が庭に視線を向け、彼女もつられて視線を向けた。

「弟たちも楽しんでおります」

歓声を上げながら色とりどりの花火を手に彼らは楽しんでいるようだった。

「うん」

火が苦手な者たちは最初からそれに近づこうとせず、杯を傾け、遠くから眺めている。

皆がちゃんと楽しんでいる。

「主は、花火を楽しまれないのですか?」

「ん?うーん...」

歯切れ悪く言う彼女に一期は納得した。自分が側にいるからか、と。

(私のことなど気にせずに付き合えと仰ってくだされば、いくらでもお付き合い致すというのに...)

そして、一期は彼女の側に置いてある紙縒りのようなものを見つけた。

「主」

「はいはい?」

声を掛けられて彼女は一期に視線を向けた。

「それは何ですか?」

長谷部の視線を辿ると手元の線香花火にぶつかった。

「ああ、これも花火。大抵締めでするからね、抜いておいたの」

「...随分と小さいですな」

先ほどの棒のものよりも小さく、同じ花火だと言われてもしっくりこない。

「んー、やってみる?」

そう問われて「よろしければ」と頷いた。


チリチリと火花がはじけている。

小さくて儚く感じる花火だった。

「主は、これを最後にと取っておられたのですか?」

「まあ、慣習的なものかな?あんな風に大騒ぎした最後に、しみじみとこんな花火をするのよ」

苦笑して彼女は言う。

ぽとんと彼女の手にある花火の珠が落ちた。

「ああ、終わっちゃった」

少し寂しげに呟く彼女をちらと見る。

彼女は一期の視線に気づかないようで、花火で騒いでいる皆の様子を眺めていた。

ぽとんと一期の花火の珠も落ちた。

「あ、」と思わず声を漏らし、彼女が振り返った。

「ああ、一期のも終わっちゃったか」

「はい。とても、儚いものですね」

「余韻が残っていいでしょ」

笑って彼女が言い、立ち上がる。

「主、西瓜を切ったよ」

縁側から燭台切が声を掛けてきた。

「ああ、はい。皆が花火に夢中なうちにたくさん食べてしまおう」

悪戯っぽく笑った彼女に一期は困ったように笑った。

「弟たちには残しておいていただきたい」

「善処します」

彼女は笑ってそう返し、西瓜へと向かった。









桜風
15.7.20


ブラウザバックでお戻りください