いちさに 01
| ギシギシと一定のリズムでベッドのスプリングが鳴る。 「ねえ、一期」 視線を落として審神者が声を掛ける。 「声を聞かせて」 シーツを掴み、一期は小さく首を横に振った。 「あら、残念」 そう呟いて再び彼女は一定のリズムでベッドのスプリングを鳴らす。 暫く部屋の中にはベッドの軋む音だけが響いていた。 「よし、お終い」 そう言って彼女は一期の上から降りた。 「どう。少しは軽くなった気がしない?」 彼女は伸びをしながらベッドで体を起こしている一期に声を掛けた。 「ええ、驚くほど軽くなりました」 「人間の体は使いすぎると疲れるから。って、刀も使い過ぎたら休めなきゃいけないんだっけ?」 そういいながら彼女が腰を捻るとバキバキと音がした。 「主、大丈夫ですか?」 「うん、自分でも驚いた」 苦笑して彼女は返す。 先ほど、一期が「最近少し体が痛く感じておりまして」となんとなくそう零した。 仕事がひと段落つき、取り敢えず休憩にしようと話して茶を飲んでいた時の事だ。 彼女は「んじゃ、そこに横になって」と言って自分のベッドを指差したのだ。 流石に主の寝所に入るのは、と躊躇っていると彼女に手を引かれてうつ伏せに寝かせられた。 因みに、今は内番の格好なので寝転んでも支障がない。 ただし、パーカーは脱がされた。 「私、これが本職」 そう言って審神者が一期を跨いで背中を押した。 あまりの気持ちよさにうとうとしてしまっていた一期は気が緩み、思わず声を漏らした。 それを耳にした彼女は手を止め、「一期?」と声を掛ける。 「いいえ、なんでもございません」 「ふーん...」 ニヤッと笑って彼女は彼の体をほぐし、再度声を聞くのに躍起になった。中々色っぽい声を聞かせてもらった。もう一度聞きたい。 一方、一期は一気に覚醒した。うとうととして再度あのような声を出してしまうわけにはいかない。 シーツを掴み、声を漏らすまいと耐えた。 後半、体に力を入れていたので凝りの解れはイマイチのような気もするが、それでも少しは軽くなったので嘘は言っていない。 「主も体がお疲れなのではありませんか?」 一期に問われて彼女は苦笑した。 「まあねー。正直、書類仕事よりも体を動かす方が性に合ってるし」 ここにいる間は書類とにらめっこする時間が最も長い。次点は睡眠。 「では、先ほどのお返しに私が主の体を解して差し上げます」 「え、いや..いい」 彼女が一歩下がるが、遠慮と受け取った一期は「ご遠慮なさらず」と言って彼女に手を伸ばす。 ひょいと抱え上げた彼女をベッドにうつ伏せに寝かせて「失礼いたします」と一期は彼女に跨る。 「では」と彼女の背に手を置くと「ひゃん」と彼女が声を漏らした。 反射で一期は手を引く。 「...主?」 「一期、ダメ。私、くすぐったがりなの。人に触られるだけで、くすぐったい」 彼女は、人を触るのは平気だが、逆は全く駄目だというのだ。 「それは...」 戸惑いながら一期は彼女の上から降りてベッド脇に立つ。 「いや、ごめんねー。せっかくの厚意を」 彼女はそう言いながらベッドに座る。 「では、手を貸していただけますかな。手は、大丈夫ですよね」 何度かその手を引いて歩いたことはある。その時に今のように拒まれなかった。 「うん、大丈夫」 彼女が手を出し、「失礼いたします」と言って一期もベッドに腰掛けた。 彼女の手を取ってその掌を指圧する。 「あ、これ気持ちいい」 「左様ですか。よろしかったです」 そう言いながら一期は彼女の掌の指圧を続けているとこてりと肩に体重がかかった。 視線を向けると彼女が凭れて眠っている。 一期は苦笑をして彼女の手を離し、そっとベッドに寝かせる。 「しかし、主がこの様子だと、初夜を迎えるときにはどのようにすれば善くなっていただけるのか...」 彼女が聞いていたら「ちょい待て!」と全力でツッコミを入れそうなことを真剣に呟いた一期は、ひとまず続きの間で彼女が起きるのを待つことにした。 |
桜風
(15.6.27初出)
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