エアコンもなければ扇風機もない。

一応、おそらくこの城の中で最も通気性のいい部屋を宛てられているのだろうが、それにしてもこの体感温度の高さ。

「あっつーい」

そう言って彼女は文机にぺたりと頬をつけ、その姿勢まま視線を動かして部屋の隅に控えている近侍を見た。

「江雪さん、暑くないですか?」

彼女はあまりの暑さに耐えかねて、高い位置で髪を結んでいる。切ろうとしたが、何人かに全力で止められてしまったので次善の策だ。

「暑いですよ」

涼しげな顔で言われても説得力がない。それに、汗ひとつ掻いていないようにも見える。

刀剣男士は神様の一種だから汗とは無縁なのかなと思ったが、いやいやと彼女はその考えを打ち消す。

毎日汗だくになりながらあの強い日差しの中で手合せをしている者たちの姿を目にしている。さらに言えば、先日「暑い」と零した自分を団扇で煽いでくれた長谷部も汗だくだった。

個人差なのかな、と思いながら彼女は体を起こす。

「何で暑いのに、涼しい顔をしてるんだろう」

独り言のつもりで呟いたら

「何事も和睦です」

と返された。

「和睦の定義が迷子になりそうなんですけど...」

彼女はそう言ながら文机の抽斗から櫛と髪飾りを取り出した。

「ねえ、江雪さん」

「何ですか?」

「髪を結ってもいいですか?」

「...いいですよ」

断っても「そこを何とか」と言われるのが目に見えている江雪は頷いた。どうしても嫌というわけもない。


彼女は早速江雪の背後に立って髪を梳く。

本人が暑さを感じると言っている通り、少し髪が湿っていた。

(やっぱ、涼しい顔してても汗ばむんだ...)

そんなことを思いながら慣れた手つきで江雪の髪を結い、「できましたよ」と声を掛ける。

江雪が渡された鏡で確認すると、高いところで一つにまとめられている。彼女がよく使用している髪飾りで結われているようだ。

「お揃いです」

そう言って彼女はくるりと背を向け、自分の髪を揺らした。

「そうですね」

江雪は頷き

「小夜ちゃんともお揃いです」

と彼女が付け加える。

「ああ、そうですね」

柔らかい表情を作った江雪に彼女は微笑み、「宗三さんのも結んでこよっと」と言って部屋を出て行く。

「主も、暑さと和睦できたようですね」

そう言った江雪は満足そうに頷いた。









桜風
(15.8提出)


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