夏祭






 朝早くに目が覚めた。

二度寝をしようと思ったがそんな気分にもなれず、起床することにした。

昨晩は夏祭だったが、彼女はこの城の外に出られないため、土産や土産話をするためにやってきた者たちの話を聞いてそれなりに雰囲気を楽しんだ。

といっても、やはり行きたかったというのが本音でもある。


障子を開けて廊下に出ると早朝の清々しい空気が待っていた。

「んー...」と伸びをしながら庭を眺め、首を巡らせて彼女は二度見した。

大倶利伽羅がいた。

大倶利伽羅はこの城に住んでいるのでいてもおかしくない。しかし、その足元が気になってしまったのだ。

ヨチヨチというかトコトコというか。たぶん、最も的確な表現は“ピヨピヨ”だろう。そんな足取りの黄色いふわふわしたものが彼の後をついて歩いているのだ。

物凄く興味を引かれて彼女は足を向けた。

気配に気づいたのか、大倶利伽羅は振り返り、足元の黄色いふわふわしたものを慌てて掬って上着の中に隠した。

「いやいや、もう手遅れ」

苦笑しながら彼女は近づき、「ひよこどうしたの?」と問う。

「別に、関係ないだろう」

スタスタと歩きだした大倶利伽羅の背に「この城の中の決定権は、残念ながら私にあります」と彼女が声を掛ける。

ピタリと足を止めた大倶利伽羅が振り返り、「何が言いたい」と警戒した様子を見せた。

「その子、ウチに置くのも置かないのも私の判断に左右されるんじゃないかなーって」

覗うように彼女が見上げると大倶利伽羅はむっとした表情を見せた。

「それで、どうしたの?ひよこって野生にもいるの?」

「祭で売られていた」

ポツリとそう返されて「ふーん」と言いながら彼女が手を出す。意図を察した大倶利伽羅は上着に隠したひよこを彼女の手の上に置いた。

「ひよこってお祭で売られているのねー」

「市でも売られているが...そいつは他の奴と群れていなかった」

可愛そうと思ったのか、自分と重ねたのかわからないが気になったのだろう。

「ねえ、この子の名前何にするの?」

問われた大倶利伽羅はじっと彼女を見た。

「なに?」

「置いてもいいのか?」

「やだ、私駄目なんて言ってない。連れて帰った子を捨てて来なさいなんて言えないよ」

笑いながら彼女が言う。

大倶利伽羅は再びむっとした表情を浮かべたが、文句は言わず、暫くの沈黙ののちに「祭」という。

「ん?」

「そいつの名前だ。祭」

「愛染が可愛がりそう」と彼女は笑った。









桜風
(15.8提出)


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