食欲の秋






 正方形の板の上にそろりと乗り、そこに表示された数字を目にして「ひっ」と短い悲鳴を上げたのは、この城の主である審神者だった。


「拙い」という気持ちがある一方で「やっぱりね」と納得する自分がある。

芋、栗、南瓜はもちろん、新米だってこの時期だし、魚も肉も美味しい。

とにかく食が進むのだ。

――秋は何故こんなにもご飯がおいしいのか。

人類にとって、これは永遠の謎に違いない。


肩を落として廊下を歩いていると、畑当番に当たってる短刀たちを見つけた。

「乱ちゃん!」

乱藤四郎。女の子のような容姿をしているが、れっきとした男の子である。

だが、そこら辺の女の子よりうんと可愛い。彼自身もそれを自覚している節がある。

「どうしたの?」

手招きする彼女に向かって乱がやってきた。

彼女は乱の前に立ち、「失礼します」とぺこりと頭を下げて彼を抱きしめる。

「え、何?!」

乱は驚いて声を上げた。

「ああ、やっぱりこれくらいがいい。乱ちゃん、羨ましい……」

「何が?」

体を離して言う彼女を見上げて乱が問う。背の高さの話だろうか。

「『天高く馬肥ゆる秋』という言葉があってね……」

察した乱は彼女に抱き付く。

「女の子は柔らかい方がいいよ。主ならもう少しふっくらしてもいいと思うよ!どうしても醜いって思ったらちゃんとボクが教えてあげるから!ボク、主が美味しそうにご飯食べてるの見るの好きだよ」

乱の言葉に彼女は困ったように笑って彼を見下ろした。

「そんなに美味しそうにしてる?」

「うん。食事当番の燭台切さんが張り切っちゃうくらいに」

最近の食事の量は自分が原因らしい。ならば、その責任を取らなくはならないだろう。

(ありがとう、燭台切さん! いつもご飯がおいしいです!)

心の中でここにいない人物に礼を述べて彼女は決心したように空を見上げる。

馬だって肥えるんだ。仕方のないことなんだ。

「よし、安心して食べちゃう!」

「うん!」

「ありがとう、乱ちゃん」

「どういたしまして!」

 彼女と乱は額をくっつけてくすくすと笑う。


(乱のやつ、大将からいつ離れるんだろう……)

同じく畑当番で移動中の厚藤四郎は、呆れながら乱を待っていた。









桜風
(15.9提出)


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