だらだらごろん






 この城では、その日の当番は廊下に掲示される。
 朝食後からの開始のため、食事会場にもなる大広間に行く途中、食事が終わってからのいずれかのタイミングで各々確認する。

「あー……」
 本日の当番表を確認した愛染はため息とも取れる声を漏らし、隣に立つ蛍丸はため息を漏らした。
 彼らの名は掲示されていない。そのため、本来なら非番だ。
 だが、非番で済ませられない事情ができた。

「国行、ちゃんと仕事してるか」
 言いながら愛染は障子戸を開けた。
「あー、やっぱり」
 眉間に皺を寄せながらドカドカと部屋に入っていく。
 この部屋は審神者の執務室。本来、このような振る舞いは主に対して失礼千万という話になるが、その主が気にしない性分なので愛染も気にしない。
「やほー」と愛染が開け放った障子の影からひょっこり覗き込んできたのは螢丸だ。
 二人が揃って審神者の執務室にやって来た理由は唯ひとつ。
 本日の近侍当番は、明石国行と啓示されていたからなのだ。
 明石と言えば、言動共にやる気がない。もちろん、やればできる子なのだが、普段はやらない子なのでできない子として過ごしている。
 そして、この城の審神者は臣下である刀剣男士たちに厳しくない。優しい。さらに、自分に対しても優しい。
 目を三角にして仕事をさせる者がそばに居ればちゃんと働く。審神者もやればできる子なのだから。そして、明石と同様、普段はやらない子という状況だ。
 つまり、やればできるのにやらないというに二人が揃ってしまった。
 マイペースな刀剣男士はこの城にもまだ他にいるが、どうしてか明石が近侍の時が最も彼女が働かないのだ。
 それを知っている愛染と蛍丸は審神者の補佐として就く近侍のさらに補佐を買って出る。勿論、彼ら自身に任務がない時に限られているが。
 いつものように様子を見に来てみたら、思ったとおり二人はダラダラと畳に寝転がって仕事をさぼっていた。
「ほら、主さん。机の上、書類が山になってるぜ」
「えー……」
「昨日は長谷部が近侍だったんでしょ? ハンコ押せばいいだけになってるんじゃないの?」
 山になっている書類をぱらぱらと捲っていた蛍丸が振り返る。
「ちょっとちょっと」
 体を起こしたのは明石だった。
「自分と主はんが『イイコト』してたら、どうするつもりやったの?」
「そんときゃ見なかったことにして、終わったころに戻ってきたぜ」と愛染。「オレだって、短刀だからそういったことは知らないことでもない」としたり顔で続ける。
「その時には本丸中に噂を流しておくよ。俺だって大太刀だし」
 蛍丸の言葉に審神者と明石が揃って「いやいや」と手をパタパタと振っり、「なんで大太刀……」「大太刀関係ないでしょ」とそれぞれツッコミを入れる。
 ため息を吐いて仕方なく審神者も体を起こした。
「はい、ハンコ」
 机の上に置いてある朱肉の蓋を取り、判を手渡された審神者は諦めて机に向かう。
 審神者が仕事をするというなら、近侍がゴロゴロと畳と親友になるわけにはいかない。
 明石は昨日から今日に掛けて新たに政府から送られてきた情報をまとめ始める。
 やればできる子コンビが始動した。
 その二人を補佐するように来派の小さい二人がちょこまかと働く。

 ひとまず、昨日の近侍、長谷部がまとめてくれていた書類を片づけた審神者は伸びをする。
 同じ姿勢で長い時間過ごした。
 長谷部がまとめてくれていたとはいえ、一応書類に目を通す必要がある。
 文字を追って理解して押印という一連の流れを繰り返していて正直もう疲れた。休みたい。畳と仲良しになりたい。お布団と添い遂げる。
「ほら、主さん」
 机の上に出された茶と羊羹に驚き、顔をあげると愛染がにっと笑った。
「よく頑張ったな」
 そんな風に子供のような姿をした彼に褒められて気恥ずかしいが、やはり労いの言葉は嬉しい。
「主はん、これが今日分です」
 明石がまとめた資料を受け取る。
 量は多くないが考えることは多そうだというのが、斜め読みして得た感想だった。
「ほかには?」
「今のところは」
「じゃあ、午後は気分転換したい」
 視線を向けた先は近侍ではなく、近侍の補佐。愛染と蛍丸だ。
明石が反対するとは思えない。反対するならこの二人。
「そうだな」と愛染が頷く。「いいね」と蛍丸も賛成した。
「気分転換って何するんです?」
 明石に問われて審神者はにっと笑う。
「庭の柿がそろそろ食べごろだって聞いてる」
「はあ……」
 曖昧な相槌を打ちながらもなんだかいやな予感がする。ちょっと逃げてしまおうかなどと明石が思っていると「柿の収穫」と審神者が宣言した。
「もうぐじゅぐじゅになってるのありますよ」
 反対する意味を込めて明石が言うが「でも、美味しそうなのもまだ残ってたよ」と蛍丸が言う。
「えー……」と渋る明石がちらと蛍丸と愛染を見ると期待に目を輝かせている。
 肩を落とし、「ほな、お付き合いしましょか」と敗北宣言をしたのを聞いて蛍丸と愛染が歓声を上げた。









桜風
(16.11.4初出)


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