夏の






 「宗三って、意外と夏が似合うよね」
 アイス最中を食べていた宗三は、そう発言した主を2秒ほど見つめて再び最中に視線を戻す。

 先ほど彼女は自分の時代から戻ってきた。
 時々政府から呼び出されることがある。そして、自分の時代に帰ると彼女はお土産を持って戻ってくる。
 秋は芋を持って帰ってきて本丸の庭で焼き芋大会を催し、冬は肉まんを買って戻ってくる。春は団子、そして夏はアイス。
 以前は棒アイスを買っていたが、棒から外して上品に食べようとした者たちが続出し、しかもそれは食べにくそうだったので彼女はアイス最中を買って帰ることにした。
 これは結構好評だった。

 自分の分は食べ終わり、彼女は部屋の中にごろんと寝ころぶ。
 刺すような日差しから逃れるように部屋の奥で寝そべってふと近似を見上げると意外と夏がしっくりきたのだ。
 トータルコーディネートでいうと絶対的に春なのに、と首を傾げ、そして素直に言葉にすると冷ややかな視線を頂く羽目に陥った。
 最中を食し終わった宗三は手と口を拭いて主に向き直る。
「それで?」
 言葉を促された彼女はやはりごろんと寝ころんだまま首を傾げた。
「夏が似合うと言ったではありませんか」
「言ったよ」
 頷く彼女に「その先に、何か言いたいことがあるのですか?と、僕は聞いているんです」と言う。
 そんなふうに聞かれた覚えはない、と思いつつも彼女は「いや、感想を口にしただけ」と素直に応じる。
「では、小夜は?」
「小夜ちゃんは、色がはっきりしてるけど、沈んだ色が多い気がするから冬かな?」
「では、兄は?」
「江雪?うーん、あの人はトータルコーディネート的にも、普段の物腰的にも冬一択かな?」
「僕だけ仲間外れですか」
 ため息をこぼした。
「さみしい?」
「いいえ。貴女が勝手に言ってるだけなので」
「仕方ないな、私も夏の仲間になってあげるから我慢しなって」
 明るい声で言う彼女に
「仕方ないですね、我慢します」
 宗三が返す。
 半眼になって不満を訴える彼女に宗三は涼しい顔をして庭に視線を向けた。

 風鈴の音が暑さを和らげると聞いて吊るしているのだが、その音をかき消さんばかりに蝉が鳴いている。
 頑張れ、風鈴!
 彼女はそんなことを思っていた。


 そよそよと頬に風を感じる。
 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 ゆっくり目を明けると庭に視線を向けている宗三の顔があり、彼の手には団扇がある。煽いでくれているのだ。
 彼は、そっけない態度をとることがしばしばあるが彼女に対して意外と甘い。
 城の中でも評判の甘さだ。
「起きましたか」
「まだ寝てる」
「……いいですけど。僕も疲れましたよ」
「一緒に昼寝する?」
「お断りします」
 大合唱する蝉の鳴き声の中でもちゃんと耳に届く宗三の声は少し冷たくて、でも言うほど温度がないわけでもない。
「宗三には夏だね」
「貴女にも夏なのでしょう?」
 返された彼女は目を細め、「仕方ないね」と呟いた。









桜風
(15.12.1初出)


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