梅雨






 審神者の供として万屋への買い物について行った鶴丸の鼻先にぽつんと雫が落ちてきて、それを雨だと認識する間もなく視界不良となった。

取り敢えず、目に入った商家の軒を借りて雨を凌ぐことにした。

梅雨の晴れ間だと言って今朝大量に洗濯を始めた堀川の事を思い浮かべ、心の中で合唱する。

あの量の洗濯物を乾かすことができるのは陽の光くらいだ。

それなのに今は太陽は翳り、それどころか滝のような雨が降ってきている。

きっと洗濯物の取り込みで大騒ぎをしているところだろう。

そして、こちらも雨は降らないだろうと高を括っていたため、傘など持ってきていない。

空が光った瞬間ドンと腹に響く大きな音がした。

隣に立っている審神者がびくりと肩を震わせた。

「何だ、主。鳴神が苦手なのか」

からかうように鶴丸が言う。

「別に」

素っ気なく返した彼女は額に張り付いている前髪を掻き上げた。

「少し驚いただけだ」

彼女のその言葉に鶴丸が「なんと?!」と声を漏らす。

「俺のあの手この手に驚かないのに、これには驚くというのか?!」

かなり衝撃を受けた表情を浮かべて鶴丸が言うと彼女は盛大なため息を吐いた。

「だから、驚いていると言っているだろう」

「今みたいにはっきりとした、驚いた反応を見せたことがないだろう」

そう指摘されて彼女は少し考え、「そうかな」と首を傾げる。

「そうなんだよ」 返した鶴丸は目に見えて拗ねていた。

「拗ねるな」

「拗ねるにきまっている」

まさか拗ねていることを認めると思っていない彼女は驚き、「ほら、驚いた」と小さく呟く。

「ん?」

「何でもない。通り雨かと思ったが、これは本降りだな。梅雨を舐めていたな」

軒から少し顔を出して空を見上げた。遠くの空もどんよりと重い。

「なあ、主」

「何だ?」

「少しこれを持てるか?」

ついてきたのだから、荷物持ちくらいしろと言われて持たされていたものを彼女に渡す。

「ん?ああ。正直重くないだろう」

そう指摘しながら彼女はそれを受け取った。

鶴丸はおもむろに着ている外套を脱ぎ、彼女の頭に被せる。「鶴丸?」

ニッと笑った鶴丸はひょいと彼女を抱え上げて「走るぞ、主」と言って土砂降りの中を走り出す。

「おい」

抗議と疑問を同時に孕んだ声音で自分よりも低いところにある頭に向かって声を掛けると

「舌を噛むなよ、主」

と笑いながらの声が返ってきた。

彼女はため息を吐き、

「後で重かったとか言うなよ」

とだけ返した。









桜風
(15.6提出)


ブラウザバックでお戻りください