肝試し
| 「主の時代の夏の風物詩といえば何だ?」 執務の切りもよく、休憩していた時のことだった。彼女は指を折りながら自分の思いつく行事や景色を口にする。 花火、スイカ割り、プール、海。そして肝試し。 「肝試し?」 反応があった。 「まあ、幼い頃にやって以来だけどな」 彼女はそう頷き、盆踊り、夏祭りと続けていく。 「待て主。今の“肝試し”とはどんな行事だ?」 自分の好みだと判断できたらしい。 どういう嗅覚をしているんだかと彼女はため息を吐いて、肝試しの説明をすると、相槌を打ちながら聞いている鶴丸の瞳は少年のように輝いてきた。 「早速準備をしよう」 そう言って立ち上がった鶴丸に彼女は肩を竦めた。 「本気?」 「当然。主は、肝試しは苦手か?」 反応が普段以上に鈍いので鶴丸が聞くと 「今は大丈夫だろうけど」 と彼女が言う。 「今は?」 「ここに来たばかりの頃はね、正直夜が怖かったんだよ。私の時代は夜も煌々と明るいんだ。鶴丸が通う花街のように」 「行ったことなどない」 間髪入れずに不機嫌に返された。 「それは失礼。話を戻して。だから、明るい夜に慣れてたんだが、ここは夜に灯りがない。夜、灯りを消したら部屋は真っ暗だし、最初の頃なんて人が少なかったから何か、怖かったんだ」 そこまで話した彼女は少し気恥ずかしくなったのか、「じゃあ、何を用意する?」と肝試しの算段の話を始めた。 「いや、肝試しはしない」 「は?鶴丸が絶対に食いつくイベントだと思ってたんだけど。今は怖くないし、石切丸に一緒に居てもらうから更に安心だし」 彼女の言葉に一瞬ピクリと反応した鶴丸は首を横に振る。 「いい。それより、スイカ割りが気になる。どうする遊びだ?」 「剣豪のする遊びではないと心から思う」 そんな返しをする彼女に鶴丸は「剣豪ではない、刀剣だ」と反論を口にした。 「まあいいや。スイカ割りとはね」 スイカ割りの説明をする彼女に「すまんな」と心の中で謝罪する。 彼女の口にした“怖い”が”寂しい”に聞こえたのだ。 だから、寂しい思いをさせて悪かったと謝罪する。早くに応えてやれなくてすまなかった、と。 「聞いてる?」 「聞いていた。つまり、スイカを割ればいいんだな?」 「説明の必要性を完全に打ち消す要約、どうもありがとう」 ため息を吐きながら彼女が言う。 「よし、さっそくスイカを買い求めてくる。楽しみにしていろ」 「はいはい。気をつけてね」 「ああ、すぐに戻って来る」 そう言って鶴丸は部屋を出て行った。 |
桜風
(15.8提出)
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